中野駅北口の目の前、中野サンモール商店街を抜けた先にある中野ブロードウェイ。いまや日本でもトップクラスの古書店、まんだらけの拠点となって以来、秋葉原に次ぐ「ヲタク・サブカルの聖地」として知られているこのビルの地下に、デイリーチコはある。創業は中野ブロードウェイが開業した1966年というから、中野の地に創業して49年。半世紀に渡ってソフトクリームを提供してきた老舗中の老舗だ。
平日の午後というのにお客さんで賑わうデイリーチコの店頭。夏休み中ということもあってか、小・中学生や観光客で賑わっている。
カウンターの上に掲げられたメニューの手描きイラストが可愛らしく、歴史を感じさせる。
話題の超特大ソフトクリームにチャレンジ!!︎
デイリーチコと言えば、特大ソフトクリームが名物だ。クリームのみの高さがおよそ30センチ、コーンを含めると40センチにもなるというビッグサイズ。重量が約700グラムにもなると言うのだから、ソフトクリームの世界では超ヘビー級。
いまとなっては定番スイーツであるソフトクリームだが、当時は流行の最先端だった。この界隈でソフトクリームを扱う飲食店のなかでデイリーチコは一番古いという。名物の特大ソフトクリームを提供し始めたのは創業から10年ほど経った頃。それまでも大きいソフトクリームを扱ってはいたのだが、フレーバーの種類が4種類しかなかった。それが、6種類になり、8種類に増え、現在の8段の形になったのだという。取材時はちょうどWindows10リリース記念キャンペーンの期間中だったこともあり、せっかくなので、10段の特別バーションをいただくことにした。
Windows10リリースに合わせて発売初日の7月29日から始まった10段無償アップグレードキャンペーンは大好評でネットで話題に。限定30食が10分で完売する日もあったほど盛況で、会期を延長して行われた。
カウンターでお金を払うと、すぐさま店員さんがソフトクリームを巻きにかかる。フレーバーはバニラ・チョコ・ストロベリー・カフェオレ・バナナ・ブドウ・抹茶・ラムネの8種類。今回の限定10段特大ソフトクリームには、これら8種類に抹茶とラムネ、そしてブドウバナナのミックスが加わる。
店員さんの動きは俊敏。コーンの上に次々と10種類のクリームを乗せていく。体感でおよそ10秒ほどで完成。スピード、そして巻きの精度、どれをとっても職人技だ。店主の鈴木さんによれば、まともに巻けるようになるまで3か月はかかるらしい。
無駄のない動き、かつ猛烈なスピードで4台ならんだソフトクリームメーカーの前を行き来する店員さん。その佇まいはさしずめ技術者。
カウンターごしに手渡されたソフトクリームは………デカすぎます!! ソフトクリームなのにハードコア。食べる者に何かを挑んでいるようにも感じる。山に例えればエベレストか。登頂は簡単じゃなさそうだ。
大きさとボリューム感に愕然。見た目は勇者の剣のようで強くなった気分になる。大きすぎる8段の特大ソフトクリーム(通常版)と比べてさらに大きさが目立つ。これで480円は安い。完食できるのが一抹の不安が胸をよぎった。
意外とアッサリ! これならイケる!?
早速、食べてみる。店主の鈴木さんいわく、特大ソフトクリームを食べるコツはスプーンを使うこと。普通のソフトクリームのように舌を使って舐める手もあるが、舌から伝わる体温でクリーム本体が溶けやすくなるからだ。さらに、ソフトクリームの表面を下から縦方向に削るように食べると、ベタベタにならず、上手に食べられる。
スプーンを使って下からすくって食べるのがデイリーチコおすすめの食べかた。溶けたソフトクリームが滴り落ちてこないよう、テンポよくちゃきちゃき食べないと!
途中まで食べたところで溶けたソフトクリームがコーンを伝って垂れてきた。スピードが足りない。ソフトクリームイーティングはスポーツだ。まだまだ未熟者のボクです。
味はあっさりとして甘さ控えめ。デイリーチコのこだわりは「飽きずに毎日でも食べられるソフトクリーム」。そのため、一般には動物性脂肪を使用するところを、植物性脂肪を使用しているそう。糖分も必要以上に甘くない。その結果カロリーも低い。なるほど、確かにこれなら毎日でも食べられる。
なんとか完食! ごちそうさまでした!
10分ほどかかってなんとか完食。サイズがサイズだけにぺろりと平らげるのは難しい。意外なことに、食べ終わったところで胸焼けのようなものは感じない。10段重ね、総重量700g超のヘビーなソフトクリームなのに。適度な甘みと植物性脂肪の使用といったお店のこだわりがが明らかに効いている。実際、毎日特大ソフトを買いに来る常連さんもいるという。
学生からのリクエストで生まれた特大ソフト
今回トライした10段の特大ソフトクリームは、Windows10リリース記念イベント向けの期間限定特別商品だ。通常時は8種類の全部乗せ。つまり、8段である。バニラとチョコは定番アイテムだが、そのほかのフレーバーは時期ごとに変わる。サイズは大・中・小の3種類。サイズによって1度に注文できるフレーバーの数が変わる。
デイリーチコのソフトクリームで特筆するべきは、サイズもさることながら、フレーバーの豊富さだ。ここまで多種多様のフレーバーを定番として製造しているメーカーはない。そのため、他にないフレーバーはお店側が考え、そのつどソフトクリームメーカーと話し合いながら開発するのだという。
まずはサイズを選びフレーバーの種類を番号で伝えるのがデイリーチコでの注文の作法。特大ソフトクリームはコーンでの提供のみ。
特大ソフトクリームは、お店に来ていた学生さんのリクエストから生まれたそうだ。中野という場所柄、お客さんは友達と数人で訪れる学校帰りの学生さんが多かった。例えば、部活帰りの地元の中学生が20人くらいでゾロゾロとやってくるように。お小遣いには限りがあるから、全員が1本づつ注文するわけではない。そこで、「みんなで食べられてボリュームのあるものを」という要望に応えたのが特大ソフトクリームだったのだ。
もともと1人で食べるためのものではなく、分け合って食べてもらうためのこのボリュームだったんですね。友達みんなで和気あいあいと食べるのもいいし、カップルで分け合うなら楽しいひと時を過ごせるにちがいない。ちょっとした冒険気分も味わえる。
最大何段まで巻けるのだろう
鈴木さんのお話を伺っていて、ふと疑問が湧いた。通常8段の特大ソフトクリームだが、最大何段まで巻けるものなのだろうか? 尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
「15段までは普通に巻けるよ。限界まで挑戦するならあと2段、17段かな」(鈴木さん)
え、8段の倍以上じゃないですか!? ただし、いつでもできるというわけではないようだ。ソフトクリームの硬さは、その時々のコンディションで変化する。特に、材料の1つである、水の温度の影響を強く受ける。そのため、夏場の暑い時季などは柔らくなりがちなため、重ねられる段の数は少なくなる。水の温度、機械の加減、店員さんの技術の程度や体調など、様々な要因の絶妙なバランスの上に成り立つというのだから、実に奥深い。
現在は少子化もあって、20代から30代くらいまでのお客さんが多いという。それと、海外からの観光客が増え、3割にものぼるらしい。確かに、めくるめくスピードでコーンの上にアイスが重ねられる様は、ある意味アトラクションだし、日本人ならではの職人芸。ジャパニーズワンダーの1つとして試してみたいと思う外国人は少なくないだろう。ヲタク・サブカルビルの地下という場所柄から考えても観光名所になっておかしくはない。
自家製なのに安い! こだわりのうどんもオススメです
デイリーチコのメニューはソフトクリームだけじゃない。さぬきうどんも美味しいとお客さんの間で評判だ。それにしても、なぜ、ソフトクリームとうどんなんだろう? 鈴木さんの答えは単純明快だった。
「(うどんは)俺が大好きだからさ。毎日食べてるよ」(鈴木さん)
そうなんですね。店主のこだわりが生み出すミラクルな組み合わせ。だから、個人商店って好きなんです。いろいろな小麦粉を試し、「中野で一番安い」という価格面も考慮に入れて生み出されたのがデイリーチコのうどんだったわけだ。
材料にこだわった麺は店内の製麺機で打つオリジナルの自家製。手間をかけているにもかかわらず、かき揚げの乗ったてんぷらうどんは300円と安い。大手チェーンでも400円近くはするだろう。「立ち食いだからね」と謙遜する鈴木さんだが、その企業努力には思わず脱帽。味と安さから、昼食時に立ち寄るビジネスマンが多いというのもうなずける。
かけうどんが200円からで種類も豊富。トッピングのてんぷらが50円からって、これ、大手チェーンの半額近くですよ! カウンター内の隅には製麺機が鎮座する。
秋から冬へと向かうこれからの季節、友達と一緒に中野ブロードウェイのデイリーチコを訪れ、特大ソフトクリームでわいわいとひとしきり盛り上がった後に暖かな自家製うどんでお腹を満たす。そんな楽しみ方、いいんじゃないでしょうか。
「友達と大勢で食べに来てください。そのほうが面白いから」(鈴木さん)
お店情報
デイリーチコ
住所:東京都中野区中野5丁目52−15 中野ブロードウェイ コープブロードウェイセンター B1F
営業時間:10:00〜20:00
休業日:年中無休