今回、解体について教えてくれるのは、解体に関する相談ごとから提携業者の紹介までを行う「解体サポート」の池貝充隆さん。そもそも、解体はどのように依頼をするものなのだろうか。
「今から10年くらい前までは、土地を仲介する不動産会社、建築を担当するハウスメーカーなどを経由して解体を発注することが中心でした。でも、近年は、土地を購入した人、売りたいという個人が直接、解体業者に発注することが増えているんですよ」と話す。背景には空き家の増加やコスト面でのメリットがあるという。現在、解体業者は全国に1〜2万社ほどあるが、正確な数は分からないという。
「解体専門の会社もありますが、なかには便利屋さんなど、異業種が参入していることもあり、解体業の正確な数は不明なんです。特別な免許は不要で重機があればはじめられるなど、参入障壁が高いとはいえなかったり、残念ながらモラルの低い会社もあり、不法投棄をする会社があるのも事実です」とその背景を教えてくれた。
また、不動産会社からの“下請け仕事”を長くしてきたため、直接、個人の方とやりとりした経験がない会社や親方なども多いという。そのため、見積書がいい加減、書面で契約を交わさないなどのトラブルも少なくないという。
「一方で、ビジネスマナーを身につけ、ていねいに対応する解体業者も増えています。解体業を営むための許可を持ち、損害賠償保険に加入しているか、人となりが誠実かなどをチェックするとよいでしょう」と池貝さん。
では、気になる解体費用だが、いったいいくらかかるのだろうか。
「解体費用を左右する要素はいくつかありますが、建物の大きさや構造、接道状況、家財の有無などが大きく影響します。また、産業廃棄物の処理場までの距離も関係してくるため、地方や地域によって異なります。そのため、当社のサイトでは過去の成約事例を公開し、“相場の参考”にしてもらっています」と話す。
例えば、東京都内では木造で坪3万円〜、鉄骨だと坪5万円〜がひとつの目安になっているようだ。
ただ、目安はあくまで目安にすぎない。例えば、都心部の住宅密集地域などでは、車や重機を使えないことがあり、そうするとすべて手作業(人海戦術)になる。また、狭小地となれば、解体した部材の仕分け場所確保も大変となるため、必然的にコストがかかってしまう。
「昔はすべて一度に壊して廃棄物として処分する“ミンチ”が主流だったのですが、現在は、部材ごとに分けてリサイクルしなくてはいけません。その分、技術や手間が必要になっているんです」と背景を解説する。また、石膏ボードを採用している、ベタ基礎(床下全面を板状のコンクリートにしたもの)、アスベスト、アルミ製ベランダなども解体費用アップの要因になるとか。いずれにしても解体をする場合は環境や周囲の人の健康への配慮が欠かせないというのが、現代の事情のようだ。
また、建物以外で費用に影響してくるのが、外構(庭の植木やカーポート屋根/上記見積もりにある植物や土間コンクリート)、見た目には気がつかなかった地中の埋設物(上記見積もりだと浄化槽)だという。いわゆる「付帯工事」にあたる。
「昔の建物だと、地中にモノがあっても、そのまま建設してしまっていることもあります。すると解体工事をしてみて、はじめて地中埋設物があるのに気がつくこともあるんです」と池貝さん。
ちなみに、解体工事を行うにあたり、役所に「解体工事届出書」を提出しなくてはいけないが、通常は解体業者が代行することがほとんど。加えて、建物の解体が終わったら、法務局で「建物滅失登記」を行う必要があるが、これは土地家屋調査士に依頼するか、もしくは施主自身が行ってもよいという。
また、建物に残された家財道具は施主自身が処分するのが前提だが、現実には体力的・金銭的な問題でできないこともあるだろう。
「家財の処分を便利屋さんなどに依頼すると高額になることも。解体業者でも家財処分を行える業者もいますので、見積時などに相談するとよいでしょう」とアドバイスしてくれた。
古家や古民家好きとしては、スクラップ&ビルドは悲しいことだが、池貝さんは「立派な建物を壊すのは、やっぱり惜しいですね。そういうときは、部材ごとに仕分けをして、古材として新しく活用されることも。こうしたリサイクルが得意な解体業者も増えていますよ」とうれしい話を聞かせてくれた。
ていねいに壊し、使えるものは再利用するーー。解体にも、建設・建築にも、そんな新しい流れが出てきているようだ。