<社説>ヘリパッド工事再開 許されぬ建設強行 政府は計画見直し話し合え


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 県民世論を踏みにじる暴挙だ。沖縄防衛局は米軍北部訓練場内のヘリパッド建設工事を強行した。警察力で基地ゲート周辺の県道を封鎖し、反対行動を排除した上での工事再開である。

 反対行動のテントや駐車車両も強制撤去された。生活道路を封鎖し、工事に反対する住民、県民を排除した建設強行は、米軍占領下の「銃剣とブルドーザー」による軍用地強制接収をも想起させる。
 一方で政府は辺野古新基地建設に向け、県を相手取る違法確認訴訟を提訴した。新基地陸上部の工事も近く強行する構えだ。「問答無用」がまかり通る異常事態だ。

 市民運動を抑圧

 警察の対応は常軌を逸している。道路を封鎖し、反対行動を排除する強硬措置は、市民の自由な活動を妨害するものだ。資材搬入の実力阻止といった行為に対する制約ではない。道路封鎖は、反対行動に向かおうとする人々をあらかじめ排除するもので、民主主義社会で正当に保障される「表現の自由」の抑圧にほかならない。
 工事の強硬再開を前に周辺道路では、法律専門家が違法性を指摘する警察の車両検問もあった。
 名桜大学の大城渡准教授はこうした警察活動に対し「国策を批判する市民運動を抑圧する動きであり、戦時下の治安維持法を想起させる」と指摘している。沖縄にとどまらず国民の人権、民主主義そのものが危機にひんしている。
 建設が強行されるヘリパッドは、オスプレイを配備予定の辺野古新基地と一体的な施設だ。既設ヘリパッドには既にオスプレイが飛来しているが、辺野古新基地建設により、両施設間をオスプレイが日常的に行き交うことになる。
 県内移設を条件とする米軍普天間飛行場の返還と、ヘリパッド移設を条件とする北部訓練場の過半の返還は、1996年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告に盛り込まれた。
 米国はSACO最終報告草案に、オスプレイ沖縄配備を盛り込んでいたが、日本政府は欠陥機と疑われるオスプレイ配備への世論の反発を恐れて文書から削除させ、ひた隠しにしてきた。
 日本政府がオスプレイ配備を認めたのはSACO報告から14年後の2010年。オスプレイ配備を前提とした合意形成や環境影響評価が行われないまま辺野古新基地建設、北部訓練場内へのヘリパッド建設が進められた経緯がある。
 オスプレイは開発段階から重大事故が相次ぎ「未亡人製造機」とも揶揄(やゆ)された。その配備が隠蔽(いんぺい)されたまま合意された辺野古新基地計画、ヘリパッド建設計画は破棄されてしかるべきだ。

 住民の懸念現実に

 訓練場内のヘリパッド建設地に近い東村高江区は建設反対決議を繰り返し、建設が強行された場合は「阻止行動も辞さない」ことも決議し、訴えてきた。
 ヘリパッドが建設されれば「人間は住めなくなる」という住民の懸念は現実となった。夜間の騒音発生回数が2年前に比べ22倍にも激増。眠れない児童生徒が学校を休む事態となっているのだ。
 このような事態を重く見た翁長雄志知事が、工事再開を「容認できない」と表明したのは当然だ。東村の伊集盛久村長は、北部訓練場の過半返還のためヘリパッド建設を容認する立場だが、オスプレイの運用には反対している。
 ヘリパッドがオスプレイ運用を前提とし、住民被害が明確である以上、県知事も東村長も県民、村民の生命と健康、やんばるの自然を守る立場から「ヘリパッド反対」を言明すべきだ。
 沖縄本島北部の海、山の自然、住民の命が辺野古新基地とヘリパッドの建設で危機にさらされている。建設に反対する県民の心も踏みにじられている。
 建設強行は県民の人権だけでなく世界自然遺産に値する豊かな自然、日本の国益をも損なう。政府は無謀な建設を中止し、計画見直しを県や住民と話し合うべきだ。