連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】第14回 『アベンジャーズ』以降のアメコミ映画の惹句を見ると、微妙な変化が見受けられる。

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●「日本よ、これが映画だ」の原点は「亡国のイージス」の台詞

 先日、某サイトでコラムを書くために、2000年以降日本公開されたアメコミ映画の興行成績を調べ、ベストテンを作ってみたのだが、これがまったくつまらない。1位から3位までが『スパイダーマン』シリーズ、4位と5位が『アベンジャーズ』シリーズ、6位と7位が『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ2作品で、以下8位『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、9位『アイアンマン3』、10位『ダークナイト・ライジング』という布陣だったのだ。最終的には『アイアンマン3』と『ダークナイト・ライジング』の間に『デッドプール』が入るとは思うものの、今世紀初頭に公開された『スパイダーマン』シリーズ3作品が未だにトップ3というあたり、このジャンルはなかなか我が国に根付かないのだなあ、と軽い諦めさえ感じてしまう。

 アメコミ映画とは文字通り、アメリカン・コミック=アメリカの漫画を原作にした映画であり、それが日本で売れていれば知名度も上がろうというものだが、どっこいこの国では国産のコミックが面白すぎる。よってアメリカン・コミックの影は薄い。それを映画にしたところで、アメリカ本国以外のヒットなど見込めるわけがないだろ。ということを、マーベルやDCコミックスのエライ人も気がついたのか、アメコミ映画は2012年あたりから、ヒーローひとりが活躍するのではなく、集団となって悪と戦うパターンを積極導入し始めた。その最初のヒット作が『アベンジャーズ』で、この映画の日本公開時には、この惹句が話題をまいた。

 「日本よ。これが映画だ」

 『アベンジャーズ』という映画の大作感を、往年の東宝東和タッチ(詳しくは、拙著『映画宣伝ミラクルワールド』を読まれたし)のハッタリで強調したこの惹句。その、時代錯誤的大げさな姿勢がヒーロー集団大活躍の内容とマッチしたのか、興収36.1億円の大ヒットを記録する。

 その『アベンジャーズ』の惹句のルーツは、福井晴敏原作の日本映画『亡国のイージス』に登場する「よく見ろ日本人。これが戦争だ」という台詞だ。この惹句を作った、いや、作らせた本人によれば「こういう感じのコピーを作るべし」と、例に挙げたつもりだったものの、そのインパクトの強さから、即採用を決定。映画宣伝用の惹句が世間の話題になったのは、久々のことであった。

●DC『バットマン』『スーパーマン』の惹句は、自意識過剰?

 『アベンジャーズ』のちょっと前に公開された、こちらはDCコミックス原作の『ダークナイト・ライジング』は、あの『ダークナイト』の続編。クリストファー・ノーラン監督が、独自のヒーロー哲学を展開する、新しい『バットマン』シリーズの最後を飾る作品とあって、惹句にもそのあたりが強調されている。

 「伝説が、壮絶に、終わる。」

 まあ言ってみれば、そうなんだけど。ただし我が国においては『ダークナイト』ってそれほど大ヒットした映画ではないのだよ。2008年8月公開で興行収入16.1億円。上記のアメコミ映画歴代ベストテンには入らないし、それ故に『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』『ダークナイト・ライジング』の「ダークナイト3部作」がこの作品で終わりますよと言ったところで、そもそも「それって何さ?」って国民のほうが多いことは間違いないだろう。そういう意味ではとっても自意識過剰というか「日本はともかく、アメリカでは大ヒットしたんだから、世界中誰もが知っているんだよ!!」という、強烈な思い込みさえ感じてしまう1行だ。

 この傾向は、DCコミックス映画に共通しており、例えば2013年8月に公開された『マン・オブ・スティール』の日本での惹句も、ヒーローの存在は全国民が認識していることが前提になっている。

 「新スーパーマン、始動。」

 だからさあ、せっかくタイトルに「スーパーマン」ってフレーズを入れてないのに、なんで惹句で出しちゃうのさ? まあ確かに、我が国では圧倒的なネームバリューを誇るとは言えないスーパーマンでも、単に「鋼鉄の男」で売るよりは、少しは有利になるのでは・・?という宣伝の人たちの考えも分からないではないけどさあ。

 そしてそのバットマンとスーパーマンが対決。マーベルの『マーベル・シネマティック・ユニバース』に倣ったのか、DCフィルムとしても自社ヒーローの集団抗争路線に突入すると高らかに宣言した『バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの誕生』。はい。この春、公開されました。その惹句をば。

 「世紀の対決。」

 うーん・・・まんまや。それに比べてマーベル陣営の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、同じヒーローの集団抗争映画でも、その内容に相応しくぐっとシリアスなタッチの惹句を押し出しています。

 「友情が、友情を引き裂く−」

 これからも続くであろう、マーベルVS DCのアメコミ映画対決。現状ではマーベルの圧勝なれど、DCの逆襲もまた侮れないところ。『アベンジャーズ』以降のマーベルのアメコミ映画が、単にアクションやVFXばかりを見せるのではなく、ドラマとしての深みもぐっと増しているあたりも注目すべきで、『シビル・ウォー』は従来のアメコミ映画より女性客の比率が高かったそうだ。マーベルとDC、両陣営のアメコミ映画対決によって、ハリウッド映画のクォリティ・アップに繋がるのではあれば、それはもう大歓迎といったところ。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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