<社説>相模原殺傷事件 なぜ防げなかったか検証を


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 相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」で、知的障がいなどがある入所者が26歳の男に刃物で刺され、19人が死亡した。

 殺人事件の犠牲者としては、戦後で最悪とみられる。障がい者の存在を否定し、抵抗できない人々の命を奪った残虐な犯罪は許し難い。事件の全容の解明と、男が犯行に走った背景を明らかにしてもらいたい。
 犯行の予兆はあった。植松聖容疑者は今回の大量殺人を予告したともとれる手紙を2月、衆院議長公邸に持参した。殺人を「革命」を行うための「作戦」と記し、施設の名称を「標的」としている。
 数日後、施設関係者に「障がい者を殺す」という趣旨の発言をし、警察の事情聴取にも「大量殺人を実行する」と述べた。精神保健福祉法に基づいて市が措置入院させると、病院では大麻の陽性反応も出た。しかし、3月上旬には退院している。
 市は退院後の状況を確認していなかった。病院は治療を続けていたのだろうか。警察はどうか。犯行を防げなかった原因の究明が必要だ。
 植松容疑者が書いた手紙の内容は障がい者を同じ人間として認めず、強い偏見や差別意識を持っていたことがうかがえる。人種や宗教、性的指向など特定の属性を憎悪し、標的とする犯罪「ヘイトクライム」といえる。
 植松容疑者はこの施設で3年以上も働いていた。なぜこういう考えを持つようになったのか。心の闇の解明も必要だ。
 安全なはずの施設で、守られるべき入所者を守れなかった。施設の防犯体制の検証も課題になる。ただし外部からの攻撃を恐れて、施設が閉鎖的になることを懸念する声もある。施設が地域に開かれ、障がい者が社会と関わり合うことは大切だ。
 4月に障がい者に対する差別的扱いをなくし、誰もが生きやすい社会を目指す「障害者差別解消法」が施行された。国や地方自治体や民間事業者に対し、障がいを理由にサービスの提供を拒否するなどの「差別的扱いの禁止」を法的義務として定めている。
 残念ながら社会の障壁が共生社会を阻んでいる。障がいのある人もない人も互いにその人らしさを認め合いながら、多様性のある共生社会を実現することが、痛ましい事件を防ぐことにつながる。