司法、国の主張追認 違法確認判決 専門検証なく結論 上告審向け政府と県、神経戦も


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦
米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡る訴訟で、多見谷寿郎裁判長(正面中央)が判決が言い渡した福岡高裁那覇支部の法廷=16日午後(代表撮影)

 沖縄県名護市辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、福岡高裁那覇支部は16日、国の主張を全面的に認める判決を下した。「普天間飛行場の被害を除去するには、本件埋め立てを行うしかない」と断定し、国が主張した「沖縄の地理的優位性」を認定するなど、司法として異例の踏み込んだ内容だった。

 だが裁判では安全保障や環境など、専門分野で県と国の主張が対立した中、多見谷寿郎裁判長は県側が申請した専門家に対する尋問を却下し、今回の結論を導き出した。判決後、県側代理人は「尋問もしていないのに、なぜ専門的なことをここまで事実認定できるのか。裁判所は全知全能と勘違いしている」と強く批判。県幹部は「『辺野古ありき裁判』だ」と憤った。

 前知事による埋め立て承認に違法な瑕疵(かし)があったかが争点となった今裁判。福岡高裁那覇支部が、県による安全保障や環境などの専門家の証人申請を却下した際、県側に浮上した危機感は、裁判所が埋め立て承認の瑕疵を実体的に審査せず、手続き論だけで淡々と国有利な判決を出すことだった。

■国の書面かと

 だが判決はむしろ国側の主張をことごとく採用した上で「公有水面埋立法の審査対象に国防・外交上の事項は含まれるが、地方自治法などに照らしても、国の本来的任務に属する。国の判断に不合理な点がない限り尊重されるべきだ」とした。“尊重”が反映された判決文を読んだ県幹部は「まるで国の準備書面のようだ。定塚さん(国側代理人の定塚誠法務省訟務局長)が書いたかと思った」と皮肉った。

 「素晴らしい判決。ここまで言及するとは思わなかった」。国側の主張を全面的に認める内容だったことに、政権幹部も“予想外”とばかりに喜々とした様子で語った。

 ただ辺野古新基地建設を推し進める国側、関係閣僚の受け止めは「異口同音」に抑制的だ。菅義偉官房長官は判決後の定例会見で「引き続き国と沖縄県との間の和解の趣旨に沿って、誠実に対応していきたい」と述べ、最高裁判決が確定するまで県との協議を続ける姿勢を示した。

 新基地建設を推し進める防衛省、訴訟の原告となった国交省、国側代理人の法務省のいずれも同様の見解を示している。

 国側の表立った発言が控えめなのは、県が最高裁に上告することも見据え、県との「対話姿勢」を見せ続けるためだ。そのため菅氏は臨時国会の状況を見ながら来県したいとの考えを表明。北朝鮮の核実験強行で中止となった稲田朋美防衛相の来県も今月下旬を軸に再調整されている。

■綱引き

 その背景には「和解条項に沿った行動を取る国と、逸脱する県」という構図を演出しようとする姿勢もにじむ。

 翁長雄志知事は訴訟の第2回口頭弁論後の会見で「ありとあらゆる方策を持って造らせない」と述べるなど、建設阻止の姿勢を崩していない。県が上告すれば年度内には最高裁判決が下されるとみられるが、県が埋め立て承認の撤回など別の対抗手段を取り続ければ、工事はさらに遅れる可能性がある。

 防衛省幹部は知事の姿勢に不快感を示しながら「われわれとしては確定判決が出て一刻も早く辺野古の埋め立てを再開することが目標だ。国と県が合意した和解条項に従わないのはおかしい」とけん制する。

 だが県側は「今回の訴訟の係争対象はあくまで埋め立て承認の『取り消し』だ。今後も県の有する権限で国の工事を適切に審査し続けるのは当然の権利だ」としている。初の判決を迎えた中で、既に協議をうかがいながら今後を見据えた神経戦が始まっている。
(島袋良太、仲村良太)