<金口木舌>自然と技術


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 祖父母が暮らしていた家にあったものを思い浮かべる。香草のヤマクニブー、木製の枕、クバの扇-。素朴だが使ってみると使い心地が良かった

▼沖縄に古くから伝わる道具を作り続ける女性が国土緑化推進機構選定の「森の名手・名人」に選ばれた。「わらび(コシダ)細工」の技術を伝承する今帰仁村今泊の国吉春子さん、98歳だ。県内では18人目になる
▼28歳で家計を助けようと沖縄では今泊だけに伝わる技術を学んだ。それから70年以上、「わらび細工」を作り続けてきた。19日の伝達式では高齢ながら元気な姿を見せた。伝達式で紹介された作品の籠は光沢のある茶色の色合いが味わい深い
▼材料はシダ植物の一種、コシダ。自ら山に分け入り材料を集めた。推薦した村歴史文化センターの石野裕子館長によると、コシダを折れないようにうまく編むのに熟練した技術を要する。自然の素材を生かし生活用品を作る
▼まさに「森の名手」にふさわしい。今泊でも作り手は数えるほど。国吉さんは息子に技術を伝承している。それでも「わらび細工」の継承には課題がある。材料の生産だ
▼昔は田畑を作ったり、まきを採ったりすることで山野が管理活用されてきた。「材料があればどんどん作りたい」。国吉さんの言葉に胸が痛む。自然と共に築いた生活を残すには、自然の保存と適度な利用が不可欠だと改めて気付かされた。