<米大統領選と東アジア 日米同盟、基地はどうなるのか>1 高嶺朝太


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

台頭する不干渉主義/背景に既得権益への不満

 米大統領選挙の結果、どの候補者が勝利しても、相次ぐ戦争と経済格差にうんざりしている一般市民の不干渉主義を求める声はワシントンに反映され、海外米軍基地の縮小・閉鎖につながる可能性は高い。
 予備選挙で敗退したが、上院議員のバーニー・サンダース氏は、貧富の格差是正を訴えて、民主党内で大きな支持を集めた。実業家のドナルド・トランプ氏は、イラク戦争を糾弾し、不干渉主義の外交政策を提唱して、共和党の大統領候補者となった。既得権益に挑戦した両候補の台頭は、現状維持打破を求める世論を反映している。

ウォール街批判
 今年の大統領選挙は、これまでとはどう違うのか。2月に始まった予備選挙では、民主、共和両党で「主流派」対「非主流派」という構図が浮かび上がった。民主党では、サンダース氏が、同党候補のヒラリー・クリントン氏のウォール街(金融業界)との結び付きを批判し、米社会で広がる貧富の格差是正を訴え、特に若者の圧倒的支持を得た。
 トランプ氏は、過激な移民政策を提唱する一方、米国の軍事干渉政策を批判し、北大西洋条約機構(NATO)、在日米軍を含む海外駐留米軍の存在意義に疑問を呈した。不干渉の外交政策を打ち出すトランプ氏の台頭は、イラク戦争などを主導してきたネオコン(新保守主義)勢力を共和党の表舞台から退場させた。
 トランプ氏とクリントン氏の間で争われる選挙本戦は、さまざまな勢力がクリントン氏のもとに集結した。ウォール街はもとより、トランプ氏の外交政策を恐れるネオコン識者、軍需産業など軍産複合体を構成する勢力、トランプ氏を拒絶する共和党議員のグループ、主要メディア、リベラル層らがクリントン氏の支持に回った。
 ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの主要紙が次々とクリントン氏の支持を表明し、CNNなどのテレビ局もトランプ氏に対する批判的な報道を連日繰り広げる一方、クリントン氏に不都合な報道を控えた。
 また、既得権益の象徴としてクリントン氏を批判する米国リベラル層も、トランプ氏の過激かつ排外主義的発言などへの嫌悪から、クリントン氏の支持に転じた。反戦などを訴えてきたリベラル系の識者たちが、「lesser of two evils(二つの悪のうちでましな方)」に投票するよう有権者に呼び掛けた。彼らは不干渉政策を支持し、海外基地を批判する緑の党のジル・スタイン氏やリベタリアン党のゲーリー・ジョンソン氏ら第三政党への投票は、トランプ氏に利するので控えるべきであると主張した。
 その一方、トランプ氏は移民排斥支持の勢力だけでなく、既得権益へ不満を持つ米国市民、米兵からも圧倒的な支持を得た。最新の「ミリタリー・タイムズ」紙の調査では、現役米兵、帰還兵のトランプ氏に対する支持はクリントン氏を大幅に上回った。軍人が中東での戦争に嫌気をさし、予算が兵器に投入され、兵士の福利厚生には回されていない現状に不満を抱いているためである。

変化はあるのか
 現時点では、各種世論調査の結果、識者の予想もクリントン氏が先行している。クリントン政権が誕生しても、サンダース支持者らが、クリントン氏の既得権益との結び付き、タカ派的姿勢へブレーキをかけるという希望的な観測もある。逆に、ウォール街、軍産複合体はもとより、主要メディア、リベラル層にまで支えられた同氏は既得権益の強力な代弁者となりうる。
 同氏が米国例外主義のもと、軍事干渉政策を推進し、安倍政権とうまく連携すると、在沖米軍基地は強化され、沖縄県民の負担増につながる。その一方で、内部告発サイト「ウィキリークス」の公開文書によると、同氏は日本の国粋主義勢力を批判している。クリントン氏が米金融大手で行った非公式の講演会の議事録から、尖閣問題について、従来棚上げ状態だったものが「中央政府に行動を強いた日本の国粋主義者勢力によって悪化した」と発言していたことが分かった。同氏は、日本国内のそのような勢力が、尖閣問題を引き起こしたとみていた。
 また、同文書によると、同氏は中国に対して強硬姿勢を示す一方、習近平国家主席を称賛するなど融和路線を歩む可能性も示唆している。
 予想を覆して、トランプ氏が勝利すると、不干渉主義を反映した、米国内の現状維持を打破する政権が誕生する。そうなれば、日米同盟の見直し、在沖米軍の縮小につながる可能性がある。

バタフライ効果
 私が取材した米国の識者や投票権を持っている知人のほとんどは「誰が大統領になっても米国の覇権主義、海外駐留政策は変わらない」と見ている。彼らはこれまでも米国の政治的なリーダーに信頼を裏切られ、失望しているからだ。
 私は沖縄から定点観測していて、米軍の海外駐留政策は見直しを迫られていると思う。その兆候の一つがトランプ・サンダース現象である。フィリピンのドゥテルテ大統領が米国と距離を置き始めたことからもうかがえるように、変化は起きている。
 どの政権が誕生しても、相次ぐ戦争と経済格差に疲弊している米国民の不干渉主義を求める声は反映されていくだろう。
 そして高江、辺野古などの沖縄の基地反対運動は、小さなことがさまざまな要因を引き起こし大きな現象となる「バタフライ効果」をアジア太平洋の米軍駐留政策にもたらすだろう。

高嶺 朝太

………………………………………………………………
 たかみね・ちょうた 1978年那覇市生まれ。私立サンフランシスコ大学卒(メディアスタディー)。翻訳者、ジャーナリスト。ニュース翻訳などを手掛けるT&TC Officeの編集責任者。

  ◇   ◇   ◇  ◇
 米大統領選の投票日、8日が迫っている。膨大な米軍基地の負担に苦しみ、新たな基地建設で揺れる沖縄にとって、この選挙はどのような意味を持つのか。そして、選挙結果は沖縄、日本、東アジアにどのような影響を与えるのか。県内の識者3氏に論じてもらう。さらに高嶺朝太氏の取材・翻訳による米国人識者6氏のコメントを紹介する。