シンガポールで県産魚評価 糸満市の「萌す」出荷


この記事を書いた人 新里 哲
シンガポールのエアバス施設で提供されるコース料理のうち、県産マグロのたたき3種盛り。皿を飾るソースはコウイカ(コブシメ)の墨

 航空機世界大手のエアバス(本社・フランス)が今年シンガポールに建設した飛行訓練施設「エアバス・アジア・トレーニング・センター(AATC)」で、施設内の食堂が提供するランチに沖縄で捕れた魚が使われている。県産魚を輸出する萌(きざ)す(糸満市)が、AATCをはじめシンガポールの高級レストラン向けにマグロ類など週250~300キロの鮮魚を出荷している。後藤大輔社長(39)は「日本の市場では評価の低い沖縄の魚も、東南アジアに目を向ければ大きな需要がある」と可能性を指摘する。

 4月に稼働したAATCは、年間1万人以上の訓練生を受け入れる。カフェラウンジ「ザ・ターミナル」では10月から食材として沖縄の旬の魚を入荷し、「メバチ・キハダ・トンボのマグロのたたき3種盛り」「メカジキのソテー」「モズクを使ったプリン」などシェフが創作したシーフード料理を提供している。150ドル(約1万6千円)のコース料金ながら、常に完売という。

 沖縄でおなじみのミーバイ(ヤイトハタ)やアカジン(スジアラ)は、東南アジア地域でも高級魚として食べられる。食品を海外から輸入するシンガポールでは、周辺のインドネシアやマレーシアで捕れた魚に比べ、沖縄の魚は2~3倍の価格で取引される。

シイラなど沖縄で捕れた魚介類をアジア向けに出荷する萌すの後藤大輔社長(右)と仕入れ・貿易担当の中山佳那子さん(左)=2日、糸満市西崎

 後藤社長は「寒冷の海の魚ほど身が引き締まって脂が乗ってくる。沖縄の魚は日本の競り市場では『見慣れない色合いで、ぱさぱさしている』と北の産地に価格で負けてしまう。だが、東南アジアで捕れる種類の魚は沖縄が北限であり、アジアで食される魚の中で沖縄産が最も脂が乗っておいしい」と語る。

 今年から海外展開事業を本格化させた萌すは、那覇市沿岸漁協の競りのほか伊平屋や八重山の養殖魚を通常より高値で仕入れ、シンガポールのほかタイや台湾にも出荷する。仕入れと貿易を担当するのは、県内で珍しい女性競り人の中山佳那子さん(25)。中山さんは「魚の姿をそのまま出すというアジアの食習慣から、皿に載せられる1匹1キロ程度の小魚サイズの需要が高い」と語る。

 朝の競りで仕入れた魚を冷凍せずに生の状態でシンガポールに空輸し、翌日の昼食の食材として使用できる。東京・築地など日本の市場よりも、沖縄の地理はアジアへの輸送面で鮮度の強みがある。

 後藤社長は「冷凍物にはない弾力のある新鮮な魚が流通することで、『長寿=いいものを食べている』という沖縄へのイメージが一層定着する。沖縄の漁業者の手取り収入を上げていきたい」と述べた。(与那嶺松一郎)