<社説>米軍つり下げ訓練 県民の命軽んじる暴挙だ 全面廃止に向け協議始めよ


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 県や沖縄防衛局の抗議を無視して危険な訓練を強行し「今後も継続する」と明言する無神経さに強い憤りを覚える。県民を顧みない米海兵隊の横暴を断じて許すわけにはいかない。

 米海兵隊は宜野座村城原区の集落などの上空で、6日から3日連続でMV22オスプレイによるつり下げ訓練を実施した。訓練は昼から夜間にかけ断続的に行われた。
 事態を重視した中嶋浩一郎沖縄防衛局長は6日深夜、米海兵隊に強く抗議した。にもかかわらず米海兵隊はその後も訓練を強行した。県民の生命を軽んじる許しがたい暴挙だ。

「継続」は言語道断

 本紙の取材に対し、米海兵隊は6日の訓練について「訓練場内で行われた」「定められた飛行経路を飛んだ」と答え、訓練場外での訓練を否定した。
 「訓練場内」という米海兵隊の主張は全く説得力を持たない。民間地上空でのつり下げ訓練を防衛局職員は確認しており、その上で抗議に踏み切ったのだ。
 しかも、城原区集落の位置を示すために防衛局が10月下旬に設置した「航空標識灯」を無視し、オスプレイが日常的に集落上空を飛行しているという。オスプレイの操縦士は集落を認識した上で訓練しているのではないか。米海兵隊は住民の危機感を直視し、事実を精査すべきだ。
 「訓練継続」に至っては言語道断だ。そもそも、県民に危害が及ぶ恐れがある訓練は米軍基地内であっても容認できない。住宅地と訓練場が隣接するような地域では、わずかなミスが大惨事を招く可能性があるのだ。
 県民の生命を守るためにも基地の内外を問わず、つり下げ訓練は全面廃止すべきである。
 6日の訓練で、防衛局は深夜にもかかわらず米海兵隊に抗議するという異例の対応をとった。しかし米海兵隊は黙殺し、7日以降も訓練を続けた。政府はそのことを重大視しなければならない。出先機関の抗議に耳を貸さぬ米海兵隊の横暴を放置してはならない。
 現地で解決できないなら、防衛・外務の本省レベルでつり下げ訓練の中止を米側に迫るべきだ。これ以上、城原区住民を生命の危機にさらすことは断じて認められない。
 県も手を緩めてはならない。7日、中嶋防衛局長を県庁に呼んで直接抗議したが、引き続きあらゆるチャンネルを通じて、県民の怒りを米側に伝え、米海兵隊の無法行為に歯止めをかけるべきだ。

許されぬ二重基準

 県民はこれまでもつり下げ訓練に怒りの声を上げてきた。日米両政府は県民を傷付け、命を奪った米軍絡みの事件・事故を振り返り、訓練中止を求める悲痛な訴えを深刻に受け止めるべきだ。
 米統治下の1965年、読谷村での米軍パラシュート降下訓練でトレーラーが落下し、少女が犠牲となった。半世紀を経た今日でも、痛ましい惨事を県民は忘れることはできない。つり下げ訓練のたびに県民は少女の犠牲を思い起こし、抗議の声を上げてきた。
 この惨事の前にもパラシュート降下訓練で車両が落下する事故が起きており、村は訓練中止を求めていた。米軍は村の要請を無視して訓練を続けた結果、少女の貴い命が失われたのだ。
 訓練を継続するという米海兵隊の方針に県民は強い危機感を抱いている。このままでは大惨事が再び起きかねない。近年では伊江村で2014年4月、夜間のパラシュート訓練でドラム缶4本(計800キロ)が基地のフェンス外に落下した。人命を脅かす重大事故だ。
 米軍は本国でも危険な訓練を民間地上空で実施しているのか。日本本土ではどうか。やっていないのなら、文字通り「命の二重基準」だ。このような差別的対応は許されない。日米両政府はつり下げ訓練の全面廃止に向け、直ちに協議を始めるべきだ。新たな犠牲者が出てからでは遅い。