<金口木舌>アイヌの言葉、沖縄の心


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 小学生の頃、児童文学を通じて「コロボックル」と「コタン」という言葉に触れた。アイヌ語と知るのは後のことだが、耳心地のよい語感が胸に響いた

▼先日他界した佐藤さとるさんにコロボックルを描いた連作がある。「フキの葉の下に暮らす」という小人を想像してみた。石森延男さんの小説「コタンの口笛」はアイヌ差別の問題を扱った。コタンとは集落のこと
▼高校生になり、同胞という意の「ウタリ」を知った。北海道の写真家掛川源一郎さんの写真集「若きウタリに」がきっかけだ。アイヌの歌人バチェラー八重子さんの作品を収めた
▼「ふみにじられ ふみひしがれし ウタリの名 誰しかこれを 取り返すべき」。差別される者の悲憤を刻んだ歌に共感したのだろう。写真家は土地を追われ、同化を強いられながらもたくましく生きるアイヌに温かい目を注いだ
▼掛川さんは、敗戦直後に大阪から長万部(おしゃまんべ)に移り住んだ沖縄人家族も記録している。極寒と闘い、大地を開く沖縄人に粘りと根性、南国生まれの楽天性を見た。写真家のレンズによって、苦難の歴史を背負うアイヌと沖縄人が一つの像を結んだ
▼先住民の権利回復を願うアイヌの声は沖縄の人々の心を震わせる。奪われ、虐げられた歴史を背負う北と南の民の声が呼応する。「ウタリの名を返せ」と求め、アイヌは歩む。沖縄の私たちも歩んでいこう。