伝統守る神秘の島 宮古島から4キロの「大神島」


社会
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宮古島の北東約4キロに位置する大神島。15世帯、人口約25人で周辺離島の中では唯一、架橋されていない島だ=8日、宮古島市の大神島(小型無線ヘリで撮影)

 宮古島の北東約4キロに位置する大神島。秘祭・祖神祭(ウヤガン)に代表される「祈りの島」としても知られる。宮古島周辺の四つの離島の中で唯一、架橋されておらず、島尻港からの定期船が島民の足だ。秘祭がある関係で、最近まで外部の調査や移住を拒んできた。

このため過疎化が進み、現在の島の人口は最盛期の1950年代の6分の1ほどとなる約25人。神秘的なイメージのある島だ。

 約15分の船旅で島に到着する。港から集落へは一本道だ。道沿いの家には網やガラスの浮きが掛けられており、のどかな漁村の風景が広がる。ほとんどの観光客が港から約10分間、この一本道を上り続けて到着する「遠見台(ピゥタティ)」に赴く。コバルトブルーの美しい海が眼下に広がる景勝地だ。

 港から左右に延びるのが未完成の一周道路だ。35年ほど前に建設が始まったが、途中の大岩が重機で砕けなかったことを契機に、異変が相次ぎ完成には至らなかった。当時島では「自然の神が怒ったから」と言い伝えられた。だが今では大神島独特の固い地層が重機を寄せ付けなかったとする見方が一般的だ。

毎年旧暦1月16日に催されるグソーの正月に当たる「十六日(ジュウルクニツ)祭」。大神島でも出身者らが集まり、線香をたいて祖先を出迎えた=23日
カートで島内を回る観光客ら

 一周道路を探索すると海に浮かぶさまざまな形をした岩石群が楽しめる。中でも観光客に人気があるのが島の北側にあるキノコのような形をした「ノッチ岩」だ。県内に点在するノッチ岩の中でも抜きんでて根元が細く、見る者は「いつ横倒しになってもおかしくはない」と、ひやひやすることだろう。

 かつては、年間60弱の祭祀(さいし)や祈願が執り行われていた。有名なパーントゥも催されていた。これらの祭祀の中で島民が最も大切にするのがウヤガンだ。今でも年間4回のウヤガンの際は、島の一部は祭事を司る女性しか立ち入ることができなくなる。

 人口減で存続も危ぶまれる中、時流に流されず、かたくなに伝統を守り続ける。この姿勢が大神島の魅力とも言えよう。
 (文・梅田正覚、写真・花城太、諸見里真利)

さっぱり タコの薫製

自慢のカーキダコ丼を手に笑顔の大浦高儀さん

 大神島の特産物はカーキダコ。この島発祥のタコを薫製にした料理だ。宮古島市内全域で知名度があるが、お目に掛かる機会はそれほど多くはない。そんな中、島唯一の食堂兼民宿「おぷゆう食堂」では「カーキダコ丼」が800円で提供されている。ご飯の上にカーキダコと炒めたタマネギを載せた看板メニューだ。独特の食感とさっぱりした味が楽しめる。店主の大浦高儀さん(64)は「薫製の方法にはコツがある。他では食べられない自慢の味だ」と自負する。

 1月28日に発刊された島で初めての生活誌「ウプシ」にはカーキダコの作り方が記されている。まずはタコを塩でもんで、ぬめりを取る。内臓を取り除いて、半日から1日かけてじっくりいぶして完成だ。「いぶすと言っても煙が多すぎるのはダメで、ウキゥシ(熾火)の熱でゆっくりカーカス(乾燥させる)のが重要だ」(ウプシ)。乾燥したタコは半分から3分の1程度の大きさとなる。かつては歯固めの意味合いで、カーキダコを歯が生え始めた幼児に与えて吸わせていた。

 島近海には各家庭で代々引き継ぐタコツボがあるという。大浦さんも食堂が一段落するとタコ捕りに出掛ける。食堂の裏に建物を建て、ここでカーキダコをいぶしている。大浦さんは「タコは焦げたら苦みがつく。長い時間を掛けつつ、焦がさないようにしないといけない。経験が物を言う」と強調する。その上で「看板メニューだからいつも切れないようにしている」と笑顔で話した。

英文へ→Ogami Island, just 4 km from Miyako Island, a mysterious place protecting tradition

※注:大浦高儀さんの「高」は旧字体