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核廃絶は世界の平和を破壊する

Learning to Love the Bomb

オバマが目指す核のない世界は、戦後64年続いた「核による平和」を崩壊させかねない。非現実的な理想論を掲げるより、やるべきことは他にある

2009年10月14日(水)14時59分
ジョナサン・テッパーマン(国際版副編集長)

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[2009年9月30日号掲載]

 9月24日、ニューヨークで国連安全保障理事会の特別会合が開かれる。安保理の議長を務めるバラク・オバマ米大統領が、核のない世界を実現するため提案した首脳級会議だ。

 オバマは昨年の大統領選のときから核廃絶を唱え、今年4月にはチェコの首都プラハで米政府の正式な目標にすると宣言。イランや北朝鮮の核開発もやめさせようと努力してきた。

 こうした取り組みは1つの前提に基づいている。核兵器はアメリカの安全保障にとって「最大の脅威」であるというものだ。

 この主張は実にもっともらしい。広島や長崎の写真を見たことがある人なら、誰でも直感的に賛成するはずだ。広く支持される主張でもある。アメリカではアイゼンハワー以降、何人もの大統領が似たようなことを口にしてきた。

 核兵器の全廃は無理でも、核の拡散防止ならオバマだけでなく、ロシアのウラジーミル・プーチン首相も中国の胡錦濤国家主席も、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相も同意するはずだ。ただし、1つだけ問題がある。前提になる考え方自体が間違っている可能性が高いのだ。

 核兵器が世界を危険なものにしているとは限らない──今ではそう示唆する研究が増えている。むしろ核兵器は世界をより安全な場所にしている可能性がある。

 ならず者国家と国際テロリストが暗躍する今の時代に、こんな見方に同調する政治家や政策当局者は皆無に近い。しかし、暴論と決め付けるのは誤りだ。

 オバマの理想主義的な訴えが実現する可能性は低い。本気で世界をもっと安全にしたいのなら、米政府にはもっと重要で実行可能な(あるいは実行すべき)措置がある。「核なき世界」という理想論は非現実的であり、ことによると望ましい目標でもない。

 核兵器が平和に役立つという説は、単純な2つの経験則に基づいている。まず、核兵器は1945年以降、1度も使用されていない。第2に、核兵器を保有する国々の間では、核戦争どころか通常の戦争も起きたことがない。20世紀が血まみれの世紀だったことを考えると、驚異的な事実だ。

「核楽観主義者」の代表格であるカリフォルニア大学バークレー校のケネス・ウォルツ教授(政治学)は言う。「世界は広島以来64年間、(核を保有してきた)経験がある。これほどの長期間、核保有国同士の戦争が1度もなかったというのは歴史的にも異例中の異例だ」

 なぜそんな異例の時代が続いたのか、そしてなぜ今後も続きそうなのか。その理由を理解するには、すべての国がいざというときには理性的に行動するという事実に目を向ける必要がある。

 世界の指導者のなかには愚か者も卑劣漢も、金の亡者も悪党もいるだろう。だが彼らには、うまくやれると確信しない限り行動を起こさないという共通の傾向がある。

「核戦争に勝者はない」

 例えば戦争。国家の指導者が戦争を始めるのは、その代償がほぼ間違いなく許容可能な範囲にとどまると判断できた場合だけだ。ヒトラーでさえ、勝てる見込みがないと判断した戦争はしなかった。

 だが、核兵器は戦争の代償を許容不可能なレベルに引き上げた。2つの国がボタン1つで相手を灰にする能力を持っている状況では、どちらにも勝つ見込みはない。どんなに無謀な独裁者も、戦争は割に合わないと判断せざるを得ない。「勝てない上に、すべてを失うかもしれないのに、戦争などできるはずがない」と、ウォルツは言う。

 実際、冷戦時代に超大国の核武装を支えた2つの理論──核抑止力と相互確証破壊(MAD)は「核による平和」を生み出した。第二次大戦後、世界の主要国が異例の長期間にわたり衝突を回避してきたのはそのためだ。

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