皆さん大切なことをお忘れです。
万有引力の法則の発見の前には,それに先だって「ケプラーの法則」があったのです。
このことは高校程度の物理の教科書に普通に書いてあります。
いくらニュートンだって先行する知識がなければ、月とリンゴだけで万有引力の発見なんてできません。
そのケプラーの法則の前にはチコ・ブラーエの観測がありました。またガリレイが発見した木星の4衛星があり,このことが引力を及ぼし合うのは太陽だけではないことの重要な証拠になり、さらには落下運動に関するガリレイの詳細な研究がありました。潮汐が月と太陽の引力によるとの説もニュートンに先立ってケプラーが唱えていました。よく物理の練習問題でニュートンの万有引力からケプラーの第3法則を導くというのがありますが,科学史上の順序はもちろん逆です。ニュートンが,ケプラーの第3法則から万有引力の法則を導いたのです。
引力自体を発見したのはニュートンではありません。引力の存在自体はニュートン以前にも多くの人が認めていました。
ニュートンのしたことは
それが質量をもつ万物に生じる力であることを,
数式として定式化することによって証明したこと(地上でも天上でも,質量を変数として含む数式に現実が従う)です。
それゆえ「万有」引力の法則というのだと思います。
この数学的関係を導き出すためには,月だけでは不足です。万有引力によって円運動する事例がたったひとつ(月)しかないのでは、距離と質量と力の関係など、演繹も帰納もできません。このためにはリンゴと月だけでなく,ケプラーやガリレイなど多くの先人たちによる天体や力学に関する膨大なデータとそれに基づく理論が先行してなければならなかったのです。ニュートンのしたことはそれまで別々の分野だった地上の力学(りんごの落下運動に象徴される)と天体の運動(月の公転に象徴される)を同じ法則で説明できる現象として統一したことです。そもそも「りんごは落ちるのに月はなぜ落ちてこないのだろう」という疑問自体が,両者は同じ法則で説明されなければならないという宣言であり主張であり決意です。
ニュートン自身、自分は先人たちの知恵の成果にちょっとつけ加えただけだと語っています。天才というと自己主張の強さばかりが強調されますが,このような謙虚さを持ち合わせている者こそが本物の天才であり,学問そのものの本質なのだと思います。つまり
先人の知恵に学ぶ姿勢が大切なのです。
強いて言えばペストの流行のために大学が休校になったお陰で自宅のリンゴの木を見てゆっくり考える機会が与えられたということではないでしょうか。
今年、麻疹の流行で休校になった大学の学生も、この期間に何か大発見したことを期待します。