本当のガラパゴス

KDDI総研 菅谷知美
 KDDI総研海外市場・政策グループ。専門はラテンアメリカなど新興市場の情報通信政策・市場動向ということになっている。“ウズベキスタン”に行った話をしても友人の記憶には“何とかタン”としか残らないようだ。


 南米エクアドルの知人を訪ねる折、ガラパゴス諸島へも行ってみようということになった。ガラパゴス――日本の通信業界では、割となじみの言葉である。例えば、日本のモバイルサービスが独自に発達した結果、世界の中では孤島になってしまったことを、“ガラパゴス化”していると表現するようだ。

 さて、本家のガラパゴス諸島は、エクアドル西の沖合い約1000kmの太平洋上に浮かぶ約20の島々である。4泊5日で6島巡るクルーズに乗船した。

溶岩台地(Isabera島にて筆者撮影)

 今も火山活動の続く島に上陸すると、見渡すかぎり茶色の溶岩台地。海底火山の噴火によって島々が生まれたことをまざまざと実感する。ひっそりと生息するヨウガンサボテンに驚く。乾燥に強い植物が、ギザギザでガリガリの溶岩を細かく砕いていくそうだが、溶岩台地が砂地に変わるまで、いったいどれくらいの時がかかるのだろう。

 海へのダイブを繰り返し小魚を捕るカツオドリ、その獲物を横取りするグンカンドリ。人の気配を感じると、シューッと息をはきながら首をひっこめて、じっと動かない巨大なゾウガメ。地理的に大陸から孤立したガラパゴス諸島で独自の進化を遂げた生き物は、やはり面白い。なかでも、陽の当たる岩の上で微動だにしないウミイグアナの大群は圧巻であった。ゴジラのモデルとなったイカツイ顔だけど、海に潜っても食べるのは海草だけ。変温動物なので、海から上がった後、体温が上がるまで動けないそうだ。

ウミイグアナ(Fernandina島にて筆者撮影)

 赤道上にあるガラパゴスだが、寒流が流れ込んでいて水は冷たい。世界で3番目に小さいガラパゴスペンギンが見られるかも! という期待にのせられて、ついシュノーケルに挑戦してしまったが、水温17度の冷たさは想像以上だった。結局ペンギンは見つからず、ウミガメになぐさめられたけれど、海から上がった後、しばらく思考停止状態になった。

 2009年は、「進化論」で有名なCharles Darwin(1809年~1882年)の生誕200年。Darwinに関するTV番組をクルーズ船内で鑑賞した。生存競争の結果、その環境に適するものだけが生き残り、他は滅びる――Survival of the Fittest。今回私が見たのは、最も進化を遂げてきた生き物たちなのだ。観光客の増加や野生化した家畜など、その生態系を取り巻く環境が悪化し、2007年、ガラパゴス諸島はユネスコ危機遺産に指定された。保全活動がうまく続くことを願う。

 世界は刻々と変化する。さまざまな種が生まれ、滅んでいくように、さまざまな業種が生まれ、消えていく。モバイル業界における色々なサービスやビジネスモデルも、生まれてはやがて消えていくのが自然の摂理。環境の変化に対する柔軟性こそが長生きの秘訣ということ――これが本当の“ガラパゴス”の意味なのである。

(菅谷知美)

2009/11/25 13:00