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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第273号

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ISASメールマガジン   第273号       【 発行日− 09.12.15 】
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★こんにちは、山本です。

 今年もあと半月を残すのみとなりました。先週になって帰り道のアチコチにクリスマスイルミネーションが出現しました。今年はやっぱり不景気なのか、例年より飾り付けが遅くなっているようです。

 新規の綺麗なイルミネーションを見つけたのですが、朝の出勤時にはどこの家なのか、サッパリ見当がつきません。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の松岡彩子(まつおか・あやこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ご長寿衛星
☆02:宇宙に夢中! −宇宙学校・おおふなと−
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:ご長寿衛星

 2009年ももうすぐ終わろうとしている。今年は、2月にあけぼの衛星が20周年を迎えた、おめでたい年でもあった。JAXAが現在運用している最も古い衛星は、地上からのレーザー光の反射を利用した測地衛星あじさいであるが、電気を使ってデータを取り地上に送っている最年長衛星はこのあけぼのである。

 人工衛星の寿命はどのように決まっているのだろうか?
 衛星の運用期間の想定は、衛星の設計を行う上で非常に重要である。衛星を計画する時、そのミッションを果たすには、衛星が最低でもどのくらいの期間生き続けなければならないか、「ミッションライフ」を定義する。悲観的ともいえる、あらゆる故障のケースを考えに入れ、ミッションライフ中必要な機能を維持できるように衛星は設計される。十分な信頼性のある部品を用いたり、冗長性を持たせたり、必要量に予備を足した燃料を積んだりする。多くの場合、最初に定義したミッションライフを終えた時でも、なお衛星としての機能は十分に保持している。科学衛星の場合には、ミッションライフを過ぎた衛星は、更にデータを取得する計画が審査され、科学的に価値があると認められれば、運用を延長して観測を行う。

 あけぼの衛星は、オーロラを光らせるプラズマ粒子の加速機構の解明を主目的として、1989年に打ち上げられた。計画当時に想定された運用期間は1年であったが、20年間を生き抜き、2011年3月までの運用が認められている。もちろん20年前に打ち上げられた後、今まで何の故障も起きなかったわけではない。あけぼのに搭載された9種の科学観測機器のうち、オーロラ撮像UVカメラは打ち上げ後1年で放射線による劣化により機能を失い、私が修士論文や博士論文でデータを使用した電場観測装置も、同じく放射線によって機能が衰え、1996年以降は正常なデータを出さなくなった。2次元太陽センサも年々劣化し、2001年には機能しなくなった。バッテリの容量は減り続け、今では日陰(地球の影に衛星が入り太陽電池による発電ができない)の間は観測機器の電源を全て切り、通信の出力パワーを落とす必要がある。しかし他の殆どの機器は20年経った今でも正常に働いており、通常の運用には支障がない。

 これまで老朽化への対応に手間がかかっていたのは、衛星本体よりも、むしろ衛星の運用に用いる地上の施設や機器である。日本国内であけぼののUHF帯を受信できるのは、内之浦局の10mアンテナだけであるが、周辺機器を含 めて老朽化が問題となっている。また、今ではコンピュータといえば Windows や Unix OS が一般的で、機種が違っても同じソフトを走らせることができる。しかしあけぼの打ち上げ当時、運用を行うシステムはミニコンや大型計算機を使って作られた。その後これらの機器は次々と製造中止・メンテナンス停止となった。故障が発生し製造メーカに修理を依頼すると、
「今回は直りましたがこの次壊れたら直るかどうかわかりませんよ」
と言われることが毎度であった。ある日、観測機器のデータをリアルタイムでグラフィック表示する機器のメーカから、今後は修理依頼には応じられないことを詫びる通知とともに、そのメーカに保管されていた全ての保守部品が詰まった段ボール箱がどかっと送られてきた。

 Windows や Unix の新しいコンピュータを使って運用支援システムを一から作り直せば、莫大な費用がかかってしまう。しかし、もっと新しい他のプロジェクトのために、新しい種類の機材で作った運用支援システムをあけぼの用に変更する等によって、「一から」の部分を省き少ない予算で乗り切ってきた。例えば、私は1998年に打ち上げた火星探査機のぞみの運用計画コマンド作成システムの開発にも携わったが、このシステムの一部を変更して使えば、あけぼの衛星の運用計画コマンドの作成ができることに思い至り、従来のミニコンから新しい Unix へのシステムの移行を行った。基本的なシステム移行が済んだ時、まるでそれを見届けて安心したかのように、あけぼの用の古いシステムの機材が永久に動かなくなった。今では、あけぼのの運用を支援する様々なシステムのかなりの部分は、関係者の多大なご尽力とご協力のおかげで新しい機材を使ったものに移行、あるいはバックアップされ、残りの部分も近々移行できる予定である。

 丁度一年前の2008年12月、真夜中に自宅の電話が鳴った。運用中のあけぼの当番からで、
「入感チェック(運用の最初に行う各機器の状態チェック)でUVC ONが認められました」
という報告であった。前述の通りバッテリが劣化しているので、日陰中に衛星の発生電圧が低下してUVC(アンダー・ボルテージ・コントロール)がONとなり、衛星が自発的に省電力モードに移行することは時々起こっている。
UVC ONからの復旧手順の指示を出して電話を切った。しかしこの時には「いつもの」UVC ONではなかった。しばらくすると再び運用当番から電話があり、
「DHUプログラムチェックでエラーが出ました!」
DHUは言ってみれば衛星の主コンピュータで、この時、打ち上げ以降初めてリセット状態になっていた。つまりは打ち上げ後20年間走り続けていた、ということであり、地上の運用支援コンピュータよりもはるかにタフに働き続けていたのであった。DHUの復旧手順を調べるために、おそらく20年間開いていなかった、打ち上げ前の電気的総合試験手順書のファイルをめくると、インクでページどうしがくっついていてぺりぺりと音をたてた。DHUの復旧運用はNEC殿に支援頂いて無事に行われ、あけぼのは特に後遺症もなく、何事も無かったかのように再び働き始めた。日本一頑強な衛星は今でも毎日元気に観測を続け、もうすぐ満21歳になろうとしている。

(松岡彩子、まつおか・あやこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※