総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」は2009年6月22日,違法音楽配信対策について,「携帯端末に違法音楽ファイルを識別する機能を備えるべき」という方向性を示した。これは,研究会の下に設けられた違法音楽配信対策ワーキンググループ(主査:慶應義塾大学准教授 菊池尚人氏)において検討されたものである。レコード会社をはじめとする音楽配信事業者の事業に影響を与えるだけでなく,出会い系サイトなど有害サイトの入り口になっているとの指摘があるため,根本的な解決策が求められていると違法音楽配信サイトを位置づける。

 違法音楽ファイルの識別機能は具体的に,2段階の処理から成り立つ。まずフィンガープリントといった音源識別技術を用いて,CDなどの正規音源から作成された音楽ファイルか個人が作成した音楽ファイルかを判断する。次に音楽ファイルが,携帯電話事業者から提供されたエンコーダー(符号化装置)でエンコードされているかをチェックする。1段階目で正規の音源から作成されたと判定され,さらに携帯電話事業者が提供していないエンコーダーで作成されたと判定できた音楽ファイルを,違法音楽ファイルと識別するというものである。携帯電話が音源のフィンガープリントやエンコーダーの種類を照合するサーバーにアクセスし,違法音楽ファイルかどうかを確認する形態を想定している。

 提供方法についてはレコード会社が市販する音楽ファイルのみを対象にするもので,違法性が明らかではない音楽ファイルに対しては利用を制限しないものという。この識別機能は,ワーキンググループの構成員である日本レコード協会による提案である。

 これまでも違法音楽配信対策は様々な方法で行われてきた。例えば日本レコード協会やJASRAC(日本音楽著作権協会)がインターネット・サービス・プロバイダーに対して行う違法音楽配信サイトの削除要請や,著作権法に基づく検挙,携帯電話向けのフィルタリング・サービスによる違法音楽配信サイトの排除などがある。ただし削除要請や著作権法違反による検挙は違法音楽配信サイトからダウンロードされた後の事後対策であり,いたちごっことなっているのが現状という。フィルタリング・サービスもすべての未成年が利用しているわけではない。いずれも有効ではあるものの,決定打とは言えないものだったと研究会は位置づけている。

 一方,この識別機能による対策は,水際で違法音楽ダウンロードを防げるため,研究会では有効な手立てだと評価している。ただし,今後検討を続けるべき課題も指摘する。「携帯電話の端末に識別機能を実装する費用を誰が負担するのか」「正規の音楽ファイルを違法音楽ファイルだと誤判定した場合の対処」などである。今回の報告内容はパブリックコメントを募集した後,7月末に研究会の第一次提言として公開する予定である。