ドコモの新スマートフォン、独自サービスで分かる本気度
ジャーナリスト 石川 温
NTTドコモは11月8日、2010年冬~11年春モデルの携帯電話の新製品28機種を発表した。このうちスマートフォンは4機種で、併せて10年12月24日に開始する次世代携帯通信(LTE)サービス「Xi(クロッシィ)」の料金体系なども発表した。「スマートフォン、iモード、LTEでドコモはネクストステージに向かう」。発表会見でNTTドコモの山田隆持社長はこう宣言した。
話題のスマートフォンでは、3D(3次元)液晶ディスプレーを搭載するシャープ製の「LYNX 3D SH-03C」、防水仕様の東芝製「REGZA Phone T-01C」、フルキーボードを備える韓国LG電子製「Optimus chat L-04C」、さらにリサーチ・イン・モーション(カナダ)の「BlackBerry(ブラックベリー)」シリーズの廉価版「BlackBerry Curve 9300」をそろえてきた。山田社長はこれまで「年度末までに7機種を投入する」と語っている。すでに10月に発表した韓国サムスン電子製の2機種と今回の4機種のほかに、残る1機種としてタブレット型端末を今年度内に発売する予定だ。
LGの新機種は、普通の携帯電話端末を使っていたユーザーでも違和感なく使えるように、「ドコモメニュー」と呼ぶユーザーインターフェースを搭載している。ソフトバンクモバイルの孫正義社長は「スマートフォンの作り込みはナンセンス」と携帯電話会社によるカスタマイズの意義を一蹴したが、NTTドコモは初心者向けに使いやすさを重視した。
3D液晶のスマートフォンは、ソフトバンクモバイルが一足早く発表している。防水対応スマートフォンもKDDIが発表済みだ。3社ではNTTドコモの製品発表が一番最後になったためではあるが、他社にないスマートフォンはLG製とブラックベリーの2機種しかなく、驚きはそれほどなかった。
「エバーノート」で独自色を出したが・・・
そんななか、NTTドコモが独自色を打ち出したのが、ネット経由のクラウドサービス「エバーノート」だ。
スマートフォンやパソコンにあるデータをクラウド上で一元的に管理し、どこからでもデータを引き出せる。ちょっとしたアイデアや写真で残しておきたいものをすべて保存しておけば、いつでもどこでもデータをチェックできるとあってスマートフォンユーザーを中心に利用者が増えている。
NTTドコモは、傘下のドコモキャピタルが米エバーノートに出資していることもあり、アンドロイド搭載のスマートフォンにあらかじめインストールすることにした。エバーノート自体はすでにアップルの「iPhone」でも人気のサービスとなっており、他社のアンドロイド端末でも利用が可能だ。そのためNTTドコモは、機能が豊富な有料のプレミアム版(月額5ドル)を1年間無料にする。将来は「iモード」対応の従来型の携帯電話端末にもアプリを載せる計画だ。
スマートフォンは、メーカーが複数の携帯電話会社に製品を供給するマルチキャリア展開に向いており、携帯電話会社は端末で他社と違いを出しにくい状況にある。KDDIがインターネット電話の「Skype(スカイプ)」、ソフトバンクモバイルが電子書籍などのコンテンツを目玉にするなか、NTTドコモはエバーノートで独自の味付けをしてきた。
確かに、エバーノートは便利なサービスだ。実際に使ってみると、後で必要になりそうなデータをとりあえずクラウドに上げておけば、いざという時に困らない。ただ、これは使っていると実感できる便利さで、初めてスマートフォンを購入するようなユーザーにどれだけ魅力的に映るかは微妙なところだ。日本でのエバーノートの認知度は一般にはまだ低く、キラーサービスというには物足りない。
iモードサービスをなぜ早く移植しないのか
今回の発表を見て気になったのは、NTTドコモらしいスマートフォンサービスが何も準備できていなかったということだ。NTTドコモがスマートフォンという舞台で何をやりたいのか、ユーザーにどんなメリットをもたらしたいと考えているのかがさっぱり見えてこない。
その点、ソフトバンクモバイルであれば、iPhoneで培ったコンテンツのノウハウをアンドロイドでも生かそうとしているし、KDDIもスカイプへの取り組みや既存の携帯電話向けの音楽配信サービスや銀行サービスをいち早く移植しようとしたところなどに努力の跡が見える。そういった意味で、NTTドコモには物足りなさを感じてしまうのだ。
NTTドコモにはiモードという5000万弱の契約者数を抱える巨大なコンテンツサービスがある。これらをもっと早くスマートフォン向けに移植する必要があるのではないか。
iモード端末向けに提供している「iコンシェル」という情報配信サービスでは、今冬モデルからユーザーのメモや手帳代わりとして利用できる機能を追加する。こういったサービスこそスマートフォンでも求められ、他社への競争力につながるだろう。iコンシェルとエバーノートが連携すると一気にユーザーの利便性は増すはずだ。
開発体制が分離、典型は「ドコモマーケット」
もちろん、NTTドコモもスマートフォン向けサービスの準備は進めているだろうが、山田社長は「2013年ごろに新規販売分においてiモードとスマートフォンが逆転する。11~12年にサービス開発の軸足をスマートフォンに移していきたい」と語っている。現在のところ、スマートフォンに本腰を入れた開発体制には移っていない。
NTTドコモの組織体系を見る限りでは、スマートフォン向けとiモード向けのコンテンツ開発は分離してしまっている。その典型といえるのが「ドコモマーケット」だ。
すでにスマートフォン向けにドコモマーケットというサービスが提供されているが、ここではアプリや動画、スマートフォンで閲覧するのに最適なサイトなどを紹介している。
一方、12月6日にスタートするiモード向けのドコモマーケットでは、iモード用アプリの配信や音楽配信、電子書籍サービスなどiモードでノウハウを培ったサービスやコンテンツが集結している。同じドコモマーケットという名称でありながら、中身は全く別のものになっている。iモード向けで準備している電子書籍などのコンテンツをスマートフォンの冬モデルにも提供できていれば、もっとドコモらしい独自性を出せたはずだ。
NTTドコモは、スマートフォンや8日発表したシャープ製の電子書籍専用端末「SH-07C」向けには、大日本印刷との協業の電子書籍配信サービスをメーンに提供しようと考えている(シャープの専用端末は同社の配信サービス「GALAPAGOS」も利用可能)。ソフトバンクモバイルのように既存の携帯電話向けサービスを転用すれば、NTTドコモならスマートフォン向けに一気に数十万種類以上のコンテンツを用意することも可能だっただろう。
KDDIやソフトバンクモバイルがスマートフォンに本気で取り組む一方で、NTTドコモはまだどこか動きが鈍いようにも感じる。巨人ドコモがアンドロイド向けサービスに全力で取りかかるようになったとき、日本のスマートフォン時代は本当に始まるのかもしれない。
月刊誌「日経Trendy」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226
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