政府が6月にまとめる成長戦略の目玉として、新たに日本に進出する外国企業を対象に、法人税を大幅に減免する外資導入促進策を検討していることが明らかになった。

 日本の法人税率は主要国で最も高い水準にあり、日本企業の国際競争力を減殺するだけでなく、日本市場に進出するチャンスをうかがう外国企業にとっては最大の参入障壁となり、日本経済が閉鎖的と批判される要因ともなっていた。

 鳩山由紀夫首相は日本企業の法人税負担も軽減する方針を示しており、自民党政権下では手が付かなかった法人税改革が進む機運が高まってきた。

アジア地域本部や研究開発拠点が対象

 政府が今回、法人税減免の対象と想定しているのは、国境を越えて活動する多国籍企業が、アジア域内の拠点を日本に新設するケースだ。「日本のアジア拠点化」を旗印に、海外、特にアジアの新興市場の活力を取り込むことで、日本経済の新たな競争力の核となりうる企業を積極的に誘致する考えだ。

 米欧企業がアジアのビジネスを統括する地域本部を置く場合や、研究開発(R&D)を担う研究拠点を設ける場合は、国や自治体が法人課税の減免を柱に、さまざまな恩典で対日進出を支援する新法を作り、来年の通常国会に提出する。5~10年程度の時限措置とし、なるべく早く成果が上がることを目指す方針だ。

 目玉となる法人課税の減免は、最大で100%免除とする。企業との個別協議で法人税率を0~10%に減免しているシンガポールなどとの対抗上、大幅な減免が必要と見ている。

 経済産業省の調べによると、主要企業の法人課税負担率(2006~08会計年度平均、連結ベース)は日本が39.2%でダントツに高く、米国、フランス、英国、ドイツは30%前後。台湾、シンガポールにいたっては13%台と、日本の3分の1程度だ。

日本の「イノベーション能力」は“世界一”だが…

 世界経済フォーラムの「世界競争力報告2009~2010」によれば、日本の「総合的な税負担(法人税、所得税などを含む)」に対する評価は世界129カ国・地域中101位と極めて低い。上位を占める中東産油国などはともかく、アジアのライバルである香港(14位)、シンガポール(18位)などには大きく水をあけられている。

 一方で日本の「イノベーション能力」は133カ国・地域中1位、「企業のR&D支出」でもスイスに次ぐ2位と、日本企業の高い潜在能力を裏付ける結果が出ており、重い法人税負担が成長の足かせになっていることは明白だ。

 2009年には米P&Gやフィンランドのノキアなど、米欧の有力企業がアジアの拠点を日本からシンガポールに移す動きが相次いだ。

 2008年9月のリーマン・ショックから世界経済が立ち直る中で、各国政府は次世代の成長を支える有望企業の誘致競争を繰り広げており、かねて外国企業に対する参入障壁が高いと批判されてきた日本もようやく重い腰を上げることになる。

親族や家事使用人を含めた入国手続きの簡素化なども

 外国企業が優遇措置を受けるには、まず日本での拠点立地計画を作り、それを日本政府が認定するという手順を踏む。

 海外から経営者、技術者、研究者といった高い能力を持った人材を呼び込むことや、長期的に拠点を維持しながらアジアで事業を拡大していくことなどが、計画に認定を与える条件となる。

 地方税を課税している都道府県や市町村など自治体にも法人課税の減免を求める。各地の大学と連携して研究開発を進めたり、地場産業と関連する分野の外国企業を誘致するなど、それぞれの地域の特色に合った産業集積につながるような誘致活動を促す考えだ。

 また、有能な人材を確保するために、所得課税の減免や、親族や家事使用人を含めた入国手続きの簡素化なども検討する。配偶者の就労が制限されている現状も見直す。

企業全体を対象とする法人税減税構想も浮かぶ

 6月の成長戦略策定に向け、外国企業の法人税負担をどこまで減免するかでは、財務省の抵抗も予想される。日本企業にとっては、強力なライバルが日本市場に参入してくることにつながる。すでに日本に進出している外国企業にとってもうまみのない施策だ。

 しかし日本経済を再び活性化させるための起爆剤として、成長著しいアジアの活力をいかに取り込むかは政府の成長戦略の最優先課題である。日本をアジアの拠点として再構築するには、アジアで活躍する多国籍企業の参入は不可欠だろう。

 そして、外国企業向けの法人税減免策の延長線上には、企業全体を対象とする法人税減税構想が浮かんでいる。

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