【寄稿連載】第十三話 ホームレス侍、七人

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ホームレスのおっちゃんの溜め息

今回は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。

第十三話 ホームレス侍、七人

俺が公園に着いたときには、もう慎重派の人々が集まってきていた。
俺は神さんを探した。神さんは、慎重派の代表者の人としゃべっている。俺はあたりを見回して、黒さんと前さんを探したが見当たらない。黒さんがいないのは分かるが、前さんはこの前のデモのときにもいなかった。少し気になったが、いつものように酒でも飲んでいるのだろうと思った。

そのとき、代表者がそろそろ出かけようと言った。しかし全員で行っても仕方がないということで、この集まったなかから代表者と数人が都庁に行くことになった。神さんはその一人に選ばれた。そのほかにはあと四人が選ばれた。

俺は都庁までついていっていいか聞いてみた。神さんが代表者に何か言っている。OKが出た。俺を含めて、七人が都庁に行くこととなった。
俺は都庁へ行くのは初めてだった。テレビでは何度か見ていたが、実物を見るのは初めてである。俺たちは約束の時間より少し前に都庁に着いた。

代表者が受付に行って、アポの確認をとっている。俺はエントランスのあたりを見回していた。社会科見学の小学生が30名ほどエレベーターの前に列を作っていたり、普通のおばさんたちがソファーでおしゃべりしたりしてるのを、もの珍しく見ていた。

時間になったのか、係の人が案内に来てくれた。俺がぼーっとその場に立っていると、神さんが一緒に行こうと言ってくれた。

俺たち七人がエレベーターで福祉課の前まで行くと、テレビやラジオの人たちが来ている。最初は報道の人たちを残して、福祉課と住宅支援課の人と俺たち七人の会談となった。
俺は都知事が来るのかと思っていた。しかしなかなかそんな人が直々に会ってはくれない。大抵は福祉課の課長さんクラスが対応してくれる。今回は住む場所のこともあるので、住宅支援課の人が参加している。

会談は30分ぐらいで終わった。とりあえず陳情書を出したが、返事が来るかどうかはわからないという。返事が来ることもあるが、検討中と言ってなかなか返事が来ないままで終わることもよくあるらしい。

陳情書を出したあと、記者会見場でテレビやラジオの記者さんから、代表者や神さんたちホームレスが取材を受けていた。俺は少し離れた場所でその光景をぼんやりと眺めながら、今からどうなるのかを心配していた。

続く

執筆: この記事は松田良一さんのブログ『ホームレスのおっちゃんの溜め息』からご寄稿いただきました。

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