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山本 久美子
2013年3月20日 (水)

東京都の調査結果に見る、マンションの耐震化はなぜ進まない?

写真: iStockphoto / thinkstock
写真: iStockphoto / thinkstock
【今週の住活トピック】
マンションの耐震化進まず「マンション実態調査結果」を公表/東京都

http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/pdf/manshon_jittai001.pdf

東京都が「マンション実態調査結果」を公表した。それによると、旧耐震基準の分譲マンションのうち、耐震診断実施率は17.1%、耐震改修実施率は5.9%と、マンション耐震化の取り組みが進んでいないことが明らかとなった。

■旧耐震基準のマンションで耐震化が進まない理由

東京都内には、耐震基準を強化する建築基準法が改正される前の「旧耐震基準」で建てられたマンションが多い。分譲マンションのうち、22.3%を占める1万1892棟が旧耐震基準のもの。特に世田谷区や港区、新宿区、渋谷区などで多い。

そこで東京都は、マンション耐震化施策の推進に向け実態を把握することを目的として、都内の分譲マンション5万3213棟、賃貸マンション7万9975棟にアンケートを実施した。(回答率は25.6%で、分譲9076棟、賃貸2万5075棟、合計3万4151棟から回答)

アンケートに回答した、旧耐震基準の分譲マンションにおける耐震診断の実施状況(回答2322棟)を見ると、実施済は17.1%、残り82.9%は未実施だった。

耐震診断費用(回答252棟)については、「100万円超300万円以内」の25.0%が最多。また、耐震診断の結果(回答182棟)は、耐震指標となるIsで「0.6以上」が36.8%、「0.3以上0.6未満」が42.9%、「0.3未満」が20.3%だった。

なおIs値とは、耐震診断の際の判断基準となる数値で、数値が高いほど耐震性が高くなる。耐震改修促進法などでは、震度6~7程度の規模の地震に対して、Is値0.6以上であれば、倒壊や崩壊する危険性が低いとされており、0.6未満の建物については耐震補強の必要性があると判断される。

つまり、倒壊や崩壊する危険性がある(0.3以上0.6未満)と診断されたのが4割強、倒壊や崩壊する危険性が高い(0.3未満)と診断されたものが2割、合計6割強が耐震改修の必要性があったことになる。

一方、耐震診断が未実施の分譲マンションにおける耐震診断の検討状況(回答1830棟)は、「今後実施予定」が11.7%あるものの、「理事会で検討中」が29.5%、「検討していない」は58.9%で過半数となった。

なぜ、耐震診断すら検討していないのか? 実施しない理由(回答981棟)は、「改修工事の費用がないため」50.1%、「診断費用がないため」32.5%と、費用不足が上位に挙がった。

また、耐震診断の実施に「反対」している者の意見(回答82棟)として「資産価値の低下があるため」69.5%、「改修工事費用がないため」65.9%、「費用負担ができないため」37.8%などとなった。

次に、耐震改修の実施状況(回答2271棟)を見ると、実施済が5.9%、未実施が94.1%だったが、これは改修設計のために不可欠な事前の耐震診断の実施率の低さからいって当然の結果だ。

耐震改修工事費用は、「500万円超1000万円以内」が最多の22.6%、次いで「1000万円超3000万円以下」の20.4%、「100万円超300万円以下」の15.1%が続く結果となった。

耐震診断費用

出典:東京都「マンション実態調査結果」

耐震改修工事費用

出典:東京都「マンション実態調査結果」

調査結果を見ると、耐震診断にも費用がかかるうえ、耐震改修が必要と判定された場合は、耐震改修工事の費用を管理組合で捻出する必要があること、耐震改修工事を実施せずに放置した場合は、「要改修」マンションのレッテルが貼られ、売ったり貸したりする際に不利になることを不安視していることが分かる。

つまりは、多額の費用を出すのは無理だし、万一診断で要改修という結果が出たら、資産価値に影響して困るので、それであれば耐震性を知らずにおいたほうがよい、という意識が浮き彫りになったといえるだろう。

■早めの修繕積立金の確保と資産価値維持への意識改革が必要

東京都は、旧耐震基準で建設されたマンションの耐震化を促進するために、マンションの耐震診断と耐震改修等に関する助成事業を行う都内の区市町村に対し、補助を行っている。

具体的には、耐震アドバイザー派遣事業や耐震診断助成事業、耐震改修助成事業、建て替え助成事業などで、都内の自治体をバックアップしている(助成の有無や内容は自治体によって異なる)。もちろん東京都に限らず、マンションが多く建つ自治体では、同様の助成制度を用意していることが多い。

旧耐震基準のマンションの耐震化のために、費用の一定額は助成金でまかなえる仕組みとなっているのだが、それでも管理組合での費用負担は避けられない。

問題は修繕積立金の不足にある。

耐震診断や改修工事費用には修繕積立金が充当される。これが不足している分譲マンションが多く、年数が経つほど建物だけでなく居住者の高齢化が進み、改修のための費用を出せないという負のスパイラルに陥る。調査結果でも、各戸の修繕積立金の額が多いほど、耐震診断を実施している割合が多くなっていた。

新築分譲時に、売りやすさのために修繕積立金を抑えているケースも多い。早期に管理組合の決議で値上げができていればよいが、資金不足に気づいたときには組合員の多くが年金生活ということになると、改修費用の捻出が難しくなる。まとまった額を一時金として出すことや、管理組合でローンを組んで返済し続けることを、ためらう気持ちも分からなくはない。しかし、大地震でマンションが倒壊や崩壊して、命や財産を奪われるリスクがあることを忘れてはならない。

長期修繕計画自体に、耐震化の計画が盛り込まれていないことも課題だ。「長期修繕計画への耐震項目の導入」についての調査結果(回答数5572棟)では、導入されているのは6.9%しかなかった。修繕計画に盛り込まれていないと、各戸から集める修繕積立金の額にも反映されないため、耐震対策については費用不足ということになってしまう。

一方で、中古マンションの売買時に「耐震性の表示」の有効性を聞いた(回答数7445棟)ところ、66.8%が「有効」と回答している。耐震性は資産価値に影響するからこそ、日頃から適切なメンテナンスを行える環境を早期に整えておくことが大切なのだ。

■耐震化が進めば、安心して売買もできる

政府も手をこまねいているわけではない。「建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を3月8日に閣議決定した。マンションを含む住宅などについて、耐震診断や必要な耐震改修の努力義務を設けるとともに、多数の利用者がいる大規模な建築物や自治体が指定する避難路沿道の建築物などは、耐震診断を義務づけ、診断結果を公表する。

また、分譲マンションなどで耐震改修が必要と認定されたものについては、大規模な耐震改修を行う場合の管理組合の決議要件を、原則の4分の3以上から過半数に緩和するとしている。こうすることで、耐震改修がしやすくなり、耐震化が促進されるという考えだ。

耐震改修を行いたくないから、耐震診断を受けないというのは、本末転倒だ。耐震診断で倒壊の危険性が低いと分かっていたり、耐震改修を行ったことで安心できることから、新しい所有者が現れるのだ。それを怠ることは、マンションのスラム化を招きかねない。耐震改修よりも建て替えのほうがハードルは高くなるので、メンテナンスをしながら、マンションを延命させることが重要だ。

まずは居住者の問題意識を喚起し、助成制度を目いっぱい利用するなどして、耐震化を推し進めることが求められる。

●建築物の耐震改修の促進に関する法律の一部を改正する法律案について/国土交通省
HP:http://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000388.html
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