と て つ も な い !
大林宣彦監督の新作映画「この空の花 長岡花火物語」が、とてつもない。

すさまじいというか、じじいがガツンとやると、すごいことを素でやる!
理屈超える、時空超える、映画超える。

マジックリアリズムっつーより、じじいリアリズムで、デタラメさ満載の掟破り超傑作かつ超駄作かつ超問題作。

映画のはじまりからすごい。
「この空の花」ってタイトルがあって、「A Movie 長岡映画」って出て、「2011年3月11日を体験した僕らはうんぬん」って出て、「遠藤玲子の感傷旅行」って出て、どんだけ出るんだよ、あわあわしてたら、「まるで夢のような、でも本当の話」ってナレーションで、「長岡ワンダーランドに一緒に旅しましょう」とか言いだして、しょっぱなから、ワンダーすぎてついていけない

と思ったら、タクシーにのってる遠藤玲子(松雪泰子)がカメラ目線で、「昔の恋人から手紙をもらったのです」って、こっちを向いて、説明台詞で早口で語りかけてくる。
なんで、こっち向くの! って思ったら、その手紙書いている昔の恋人も、書く手を止めて、くわっと頭をあげてこっち向いて、「生徒の劇を観てもらいたくて、手紙を書いたんです」とか言うので、いやいや、客席気にしなくていいから、ふつーに映画進めてくださいよ、と当惑する間もなく、18年前に時空飛ぶ

ふたりが別れるシーン。

別れ際に、遠藤玲子が「戦争なんて関係ないのに」って、突然、本当に何の関係もない話題を! 男も、そりゃ「せ、せんそう!?」って驚きますわな。しかもテロップで「戦争」って出てくるので、客も驚きますわな。
男(長髪のカツラをかぶった高嶋政宏)、その後、何をとちくるったか、真剣な顔で「痛い! この雨が痛い!」
わけわかりません!
しかも、これが何だったのか、最後までぼくには分からず、っていうか、これぐらいの不思議は、ここから先の怒濤のワンダーにくらべれば些細なことなので、これっぽっちも気にならなくなる。

長岡で先生やっている男の前に、花という謎の少女が突然あらわれます。
「まだ戦争に間に合う」という脚本を持ってきて話す少女はバストショットで映し出され、なぜかゆらゆら揺れていて、どうしたのこの娘?って思ったら、一輪車に乗ってる。

教室の廊下を、一輪車で駆け抜ける花。
教員室で、花火の蘊蓄を説明しはじめる先生。他の先生も、カメラ目線+説明台詞で花火の説明。突如、しゃみせんを引き出す始末。
このあたりでも、テロップはガンガン、出てくる。
戦争の話になって、爆弾が今でも掘り起こされるって話題で、あなたは? 「じゃが芋掘りに」って答えるときにも「じゃが芋掘り」ってテロップ
その、テロップ必要? と思う間もなくテロップの連打。「日本は今、平和である?」とか「テヅカオサムシ」とか、テロップの嵐で、はてなの嵐。

この映画は、長岡大空襲と中越大地震と東日本大震災が重ねられるのだけど、過去回想とか、切り替えて共通部分を観客に示すとか、そういう迂遠な表現は使わず。マジックリアリズムというか、じいさんリアリズムで、ともかく渾然一体に。
戦争で死んだ人が、現在のシーンに、幽霊でも暗喩でもなく、説明抜きに出てくる。

で、花という名の少女は、一輪車で少年とぶつかるという斬新なボーイミーツガールで、胸キュンな会話をするのだけど、一輪車乗ってるので、ゆらゆらしたりくるくるしたり落ち着かない。

旗もって一輪車に乗って通り過ぎる少女。校舎の屋上でくるくるくるくる回る少女。

クライマックスは、花が脚本を描いた戦争の舞台と、戦争で赤ん坊を亡くした母親の紙芝居と、長岡の花火がシンクロ。
舞台に、山下清や、戦死した少年が、舞台で演じている何かではなく紛れ込むけど、もうこれぐらいでは驚かない。爆弾が落ちて、ギザギザの漫画みたいな爆発がCGで描かれるのも、それが何なのか(舞台の演出なのか、幻影なのか、ただCG使いたかったのか)を判断する必要もなく、ただ画面がものすごいことになってるなーと感嘆しながら眺めるのです。
どーーーーん!
花火!
山下清が太鼓を叩く。

どーーーーん!
母親の顔アップ、涙。「花ーーっ」
どーーーーん!
一輪車で通り過ぎて、
どーーーーん!
坂田明が、何の説明もなく登場してサックスを吹く。
花火を背景にサックスを吹く横顔はかっこいいけど、どうして出てきたのか、わからないので、笑ってしまいそうにるけど我慢。
どーーーーん!
舞台で演じている少年少女たちの顔がぱわわーんって出てくる。
どーーーーん!
軍帽をかぶった付けヒゲ少女の顔、キラキラとした表情でアップ!
どーーーーん!
感動的なシーンだと思うのだけど、付け髭に軍帽の少女(萌える)。
どーーーーん!
山下清、坂田明、他にもいろんな人が楽器を演奏はじめて、ぷっぱかぷーぷー踊り出して、
どーーーーん!
と思ったら、母親のモデルになった人(テロップで説明してくれるので分かる)が出てきて、「戦争はいけん」みたいなこと喋って、虚実も突き破っちゃったなー、
どーーーーん!
戦争で死んだ少女と生き残った母とモデルになった人と伝説の花火師と放浪の画家と先生と、あの人だれ?
どーーーーん!
「俺たちの雑学にも筋道が必要だ、それは祈りと願いだよ」 なんか、決め台詞っぽく喋ったけど、どう受け止めていいかわからないよ。

どーーーーん!
日本は今、平和である?
どーーーーん!
痛い! この雨が痛い!
どーーーーん!
「大団円」(ってテロップで出る)
どーーーーん!
ENDMARKはつけないのです、未来へ!
どーーーーん!
酢飯たべたくなってきたのです、あおいで!
どーーーーん!
花火バックの付けヒゲ少女の顔、ポストカードほしいなー
どーーーーん!

「この空の花」は、正直、ワンダーすぎて、この紹介文も、だいぶワンダーになってる気がする。
圧倒的な夢幻を観たような気がして、本当にこんな映画だったのか、もう自分自身も信じられない(予告編観ると、でも、本当だった気もする)。
想像力の大切さが語られ、ほんと、観てる側の想像力というか、夢パワーというか、もしかしたら、途中で寝てたのかもしれない、という気がしてきたので、オススメはしません! だが、観よ! 考えるな、観て、ワンダーせよ!(米光一成)