4号機の危険性指摘への考察

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Flying Zebra @f_zebra

福島第一4号機SFPについては、燃料集合体が冠水していることが確認され、耐震補強工事及びFEMによる耐震評価が完了した時点で部外者が気にしなければいけないものとしては「終わった」問題だというのが私の認識ですが、そうは思わない人も少なくないようなのでもう一度考えてみます。

2012-05-19 00:09:14
Flying Zebra @f_zebra

事故の収束作業はまだまだ続いていて、1~3号機から損傷した炉心が取り出されるのはまだ数十年先でしょう。それまではひたすら冷やし続ける必要があり、大規模な漏洩の可能性は小さくなりましたが放射能を帯びた廃液の管理にはずっとリスクが付きまといます。

2012-05-19 00:09:57
Flying Zebra @f_zebra

それに比べ、4号機は炉内に燃料がなく、SFPの使用済燃料にも大きな損傷がないことが確認されています。崩壊熱は事故直後より更に小さくなっていて、来年の末頃から燃料集合体の取り出し作業が開始される予定です。あくまでも比較の問題ですが、状況はずっとマシです。

2012-05-19 00:10:45
Flying Zebra @f_zebra

それでも殊更に4号機を危険視する意見が根強く残っているようなので、その根拠を調べてみました。大まかに言えば、余震等で建屋が損傷、冷却ができなくなって加熱し、被覆管がジルコニウム火災を起こして燃料中の放射性生成物をエアロゾルとして撒き散らす、といったストーリーのようです。

2012-05-19 00:11:48
Flying Zebra @f_zebra

ところが、その根拠となると国内外の公的機関あるいは「まともな」専門家がそうした危険を指摘した事実は見当たらず、A.ガンダーセンあたりが吹聴しているものが拡散しているようです。ジルコニウム火災についてはNRCの研究がいくつか言及されていたので、そちらを調べてみました。

2012-05-19 00:12:34
Flying Zebra @f_zebra

9.11テロ以前には、SFPのジルコニウム火災は運転を終了して廃止されるプラントの潜在リスクとして認識され、所外への甚大な放射能汚染を引き起こす可能性があるもののそのリスクは小さく、追加の規制は不要とされていました。nrc.gov/reading-rm/doc…

2012-05-19 00:13:56
Flying Zebra @f_zebra

ここで言及されているスタッフレポートは記載のURLからは辿れませんが、以下のURLで全文を読むことができます。アメリカはEPRIなど民間の研究機関はあまりデータを出したがらないのですが、NRCはほとんどの文書を無制限で公開しています。pbadupws.nrc.gov/docs/ML0113/ML…

2012-05-19 00:14:37
Flying Zebra @f_zebra

注意すべきは、アメリカの規制は徹底したリスク分析に基づいて行われていることです。アメリカ以外では確率論的「安全性」解析(PSA、SはSafety)と呼びますが、アメリカは潔くRiskのRでPRAと呼んでいます。

2012-05-19 00:15:50
Flying Zebra @f_zebra

リスクとはハザードの大きさ×発生頻度であり、総リスクとはそれらのリスクを足し合わせたものであると、一般向けのレポートでも丁寧に説明されています。ハザードが甚大でも発生頻度が低ければリスクは小さくなり、有効な予防処置がある場合もリスクは小さく評価されます。

2012-05-19 00:16:49
Flying Zebra @f_zebra

レポートでは、解析の結果SFPの事故による公衆被曝リスクは低いと結論付けられ、特に最終停止から1年を経たプラントではジルコニウム火災の可能性は低く、緊急避難計画の要求を緩和する根拠とできるとしています。

2012-05-19 00:17:53
Flying Zebra @f_zebra

以上が2001年以前の状況です。9.11テロは原子力業界にも大きな衝撃を与えました。想定外のテロ攻撃が成功しうることが明らかになり、現時点で具体的な手口が想定できない「効果的なテロ攻撃」に対しても備えておく必要性が認識されました。

2012-05-19 00:18:28
Flying Zebra @f_zebra

商用原子力プラントの安全対策も大幅に見直され、多くの追加対策が実施されました。このため、福島事故を受けたアメリカ国内の原子力プラントに対する緊急対応の検討では、既に完了した対策で十分なため、特に緊急の追加安全対策は必要ないと判断されました。

2012-05-19 00:19:56
Flying Zebra @f_zebra

SFPのリスクについては、全米アカデミーズ(科学アカデミー、技術アカデミー、医学院)による公開報告書、"Safety and Security of Commercial Spent Nuclear Fuel Storage"(2006)に詳しく解説されています。

2012-05-19 00:20:31
Flying Zebra @f_zebra

以下のURLで全文を無料で読むことができます。以下は、この報告書を読み解いていきます。nap.edu/catalog.php?re… 使用済燃料について構造から現状まで幅広い内容が丁寧に解説されてるので、英語ですが、全編読めばかなりの知識が身に付くと思います。

2012-05-19 00:21:39
Flying Zebra @f_zebra

本題に入る前に、イントロに興味深い記述を見つけたので紹介しておきましょう。「原発に関しては、常に追加の利得が発生する。人は他の物理的な傷害より放射能を(過大に)恐れがちであり、放射能への懸念があるテロ攻撃は実際の物理的被害を超える大きな影響がある。」(p12)

2012-05-19 00:23:03
Flying Zebra @f_zebra

つまり、放射能への恐怖心のために物理的被害以上のパニックが起こり、合理的な補償、除染コスト以上のコストがかかり、経済への影響も拡大し、故にテロリストにとっては実にコストパフォーマンスに優れた「おいしい」攻撃対象となりうる、ということです。

2012-05-19 00:23:48
Flying Zebra @f_zebra

2章ではテロ攻撃について解説されています。具体的な手口はさすがに機密扱いで非公開ですが。ここでも、テロに対して脆弱なのは原子力施設だけでなく、石化プラントなどは原発より脅威が高い上に、人口密集地に近接していることが指摘されています。(p27)

2012-05-19 00:24:27
Flying Zebra @f_zebra

報告の中で、9.11以降にテロ攻撃をも想定して事象を緩和する対策が取られており、仮に攻撃が成功しても重大な事態に至る可能性は低いと結論されています。また、堅牢な構造、厳重な警備のため、攻撃対象としては他の施設に比べ選択されにくいことも指摘しています。(p34)

2012-05-19 00:25:34
Flying Zebra @f_zebra

使用済燃料はSFPまたは乾式キャスクで保管されていますが、3章ではこのうちSFPの潜在リスクについて論じています。冷却が失敗し、ジルコニウムの被覆管と酸素または水蒸気が反応して水素を発生する反応は発熱反応であり、加速的に進展する可能性があります。(p38)

2012-05-19 00:26:03
Flying Zebra @f_zebra

これがジルコニウム火災で、温度が更に上昇すれば燃料の膨張、被覆管の破裂、更に燃料の溶融と進展し、その場合生成物及び燃料自体がエアロゾルとして放出され、外部に出れば甚大な汚染を引き起こすことがメカニズムとしてはあり得ます。(p39)

2012-05-19 00:26:45
Flying Zebra @f_zebra

原子炉の炉心内におけるジルコニウム-水蒸気反応については1960年代から研究されていますが、これを応用してSFPの冷却材喪失事象について検討しています。

2012-05-19 00:27:51
Flying Zebra @f_zebra

過去の研究では、SFPのリスクは炉心のリスクより遙かに小さいとされてきました。これは冷却水が大気圧である(加圧されていない)こと、燃料が未臨界で発熱量が小さいこと、配管の配置・構造等から冷却材喪失が起きにくいことなどによります。(p44)

2012-05-19 00:28:45
Flying Zebra @f_zebra

報告は、近年の燃料の高燃焼度化やSFP内の高密度化を考慮してもなお、SFPのリスクが低いという結論は現在も有効であるとしています。ただし、過去の研究はテロ攻撃を想定していないことには注意を要すると指摘しています。

2012-05-19 00:30:15
Flying Zebra @f_zebra

NRCは定期的にSFPのリスク解析を見直しています。先に紹介した、2001年の研究報告についてもこのページで概要が紹介されています。PRAの結果、SFPで冷却水喪失が起こるとすれば大規模地震、または移送中にクレーンから燃料が落下することによって起こる可能性が高いそうです。

2012-05-19 00:31:16
Flying Zebra @f_zebra

強制冷却が失われたものの冷却水は失われないという場合だと、燃料が露出するまで約100時間の対処時間があるという熱流力解析結果も紹介されています。結論としては先に紹介した通り、ハザードは大きいが発生頻度が低く、リスクとしては小さいというものです。

2012-05-19 00:31:52