「落としどころなし」迷走する2ちゃんねる捜査――現状まとめ

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IHC通報窓口ページより引用

2ちゃんねる捜査問題の現状まとめ

■もともとの問題
何者かが違法薬物の個人間売買に関する書き込みを2ちゃんねるの掲示板におこなったため、主にIHC(インターネット・ホットラインセンター)を通して削除依頼を出したが2ちゃんねる側が削除に応じなかった。これは2ちゃんねるが違法薬物の取引を助けたことになりけしからんということで警察が捜査開始。

■実際はどうだったか
結局、IHCからの削除依頼の方法が間違っており、削除依頼が1通も届いていなかった。IHCの削除依頼方法が適切だったのかという議論がネットで起きる。

■警察庁・警視庁の対応
IHCからの削除依頼メールが届かなかったことに対する責任は誰にあるのかという点に注目が集まる中、警察側は別件をマスメディアへリーク。その内容は、昨秋(2011年)警察が国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、シンガポール警察へ捜査共助要請したことと、米国の連邦捜査局(FBI)に対して捜査協力を求めたというもの。新聞、テレビ、一部ネット媒体が報じる。

リーク情報に関する余談

というわけで、無視していたといわれていた削除依頼が実は届いていなかったという、きれいなオチがついてはいるんですが、日本の警察は一旦捜査をはじめたらなにがなんでも誰かを悪者にしなくちゃいけないシステムになっているらしく、まだ走り続けているようです。もしやめてしまったら、そもそもなんでこんなデタラメな捜査をやったのだという追及が始まり、捜査のGOサインを出した偉い人の責任が問われることになってしまうそうです。責任を問われるのは誰しも嫌ですから、やめるにやめられない、ということになってしまいます。手詰まり状態なのは明白ではありますが、とりあえずはマスメディアに手伝ってもらって必然性のないリークを繰り返し捜査対象のイメージを悪くする作戦を続行している模様です。こんなこと続けても何の意味もないですし、それこそお金のムダだと思うのですが……。

YOMIURI ONLINEより引用

ちなみに警視庁がシンガポールで捜査をおこなっていた事実に関してガジェ通は昨年時点で把握してたんですが、「捜査に関することだから書かないで」と言われてましたし、まぁ状況を見てわかる人はわかる事かなということで馬鹿正直にそのままにして忘れてしまってました。その件に関する警察からマスメディアへのリークがこのタイミングでおこなわれたというのは非常に興味深いところです。マスメディアも一斉報道していましたが、昨年の情報をなぜこのタイミングで流したのかという点を疑問に感じている媒体はなさそうです。そもそも警察が警察の都合でリークする古い情報をそのまんまコピペして報じてるだけじゃ他と差がつかないんじゃないでしょうか。というわけで、もう一回、どこがポイントか整理してみます。

2ちゃんねる捜査問題、現在の注目ポイント

現在の注目ポイントは「虚空に消えた5000通の削除依頼」の話です。マスメディアの記者さんもここらへんを調べてみたらいいかもです。先ほどのまとめでも整理しましたがそもそもは「警察からの削除依頼を無視してけしからん」という話が捜査のきっかけでした。しかしその削除依頼自体が虚空に消えていたとして話がひっくり返ってしまっているのが今。いわゆるネット用語でいう「ブーメラン状態」です。その周辺を取材してみると新しいネタが出てくる可能性があります。

例えば「IHCからの削除依頼方法は適切だったのか、削除依頼の責任者は誰か、そして誰が責任をとるのか」あたりがこれから話題になってくるんじゃないでしょうか。今から取材しても間に合います。

6億円は何に使われたのか。そのうちいくらが虚空に消えたのか

一例ですがこんな切り口はどうでしょうか――IHCは設立からこれまで、6億円以上の国庫からの支払いを受けています(6億5140万円)。要するに、6億円以上の税金を使って警察庁の委託で削除依頼をおこなっているのがIHCです。ここ最近の予算は年間およそ1億5千万円。この予算の使い道の内訳や実際に削除依頼作業にあたっているスタッフの数については、質問しても一切答えてもらえません。内訳など詳細を教えてもらえないので想像含みのざっくりした計算となりますけど、昨年の総削除依頼件数がおよそ1万5千件。そのうち5000件が2ちゃんねる関連だそうです。つまり3分の1が2ちゃんねるなわけです。ほんでは、2ちゃんねるへ出してた削除依頼がすべて虚空に消えていたとしたらいくらの税金が虚空に消えたことになるか。届かない削除依頼を出すのにいくらのお金を使ったのか。おそらく数千万単位の洒落にならない金額が消えたことになります。記者クラブ所属媒体の記者さんは、発注者である警察庁にもっと詳しい話をきいてみるといいかもしれません。

昨年度だけでもこのような状態ですから、総ての虚空に消えた税金をあわせるとかなりの金額になるだろうということが予想されます。これ、誰が責任をとるのでしょう。

かたや2ちゃんねるの削除人さんはボランティアで削除作業をやっているわけです。削除依頼の出し方にもっと工夫の余地があったのではないでしょうか。「PDF添付メールでの削除依頼が最強だから全部これで送る。例外はナシだ」と勝手に決めて、しまいには相手に届かずにかなりの費用をムダにしている。ほんとに恐ろしい話です。そしてそもそもの「違法情報を削除する」という話はどこぞへ行っちゃって宙に浮いてしまってるというのもこれまた恐ろしい話です。

この切り口はほんの一例ですが、少なくとも「警察からの情報を待っている」だけでは書けない話です。ジャーナリストの皆さんの健闘を祈ります。

ひきつづき情報提供お待ちしております

ひきつづきインターネット・ホットラインセンター(IHC)、財団法人インターネット協会(IAJ)に関する情報提供をお待ちしております。また、諸般の事情により書きたいことを書けないマスメディア関係者などからの情報提供も歓迎です。

[ガジェット通信]情報提供フォーム
https://www.razil.jp/getnews/tarekomi/

参考資料:IHCへの質問と回答

IHCへの質問とそれに対する回答を公開します。
【質問】インターネット・ホットラインセンター運営に関わる国庫からの支払い金額について

インターネット・ホットラインセンター(IHC)の運営に関わる国庫からの支払いは財団法人インターネット協会のウェブサイト等の資料によれば以下の通りですが、これで間違いないか確認をお願いいたします。

平成18年度:ホットラインセンターの設置及び運営 :3500万円
平成19年度:インターネット・ホットラインセンターの運営:8500万円
平成20年度:インターネット・ホットラインセンターの運営:1億円
平成21年度:インターネット・ホットラインセンターの運営:1億5000万円
平成22年度:インターネット・ホットラインセンターの運営:1億4490万円
平成23年度:インターネット・ホットラインセンターの運営:1億3650万円
平成18年度~平成23年度までのIHC設置及び運営に対し国庫から支払われた金額の合計:6億5140万円

【回答】間違いありません。

【質問】インターネット・ホットラインセンターの予算内訳について
インターネット・ホットラインセンターの予算の使途について可能な限り詳細な内容を開示してください。直近の平成23年度分だけでも結構です。

【回答】開示していません。理由は、前回の回答通りです。(*)

【質問】インターネット・ホットラインセンター運営の外注委託に関して
インターネット・ホットラインセンターの運営は一部外注へ委託しているとのことですが、外注をおこなっている業者の名前、所在地、外注金額、具体的な作業内容、作業期間を開示してください。

【回答】運営は外注委託していません。

【質問】財団法人インターネット協会の平成23年度事業計画書によれば「ホットラインセンター内にてサイバーパトロール専従要員を受け入れ、サイバーパトロール受託者との連携も図る」とのことですが
 4−1.受託者名を教えてください
 4−2.この専従要員は具体的に何をおこなっているのですか
 4−3.これはボランティアでおこなわれているものですか。そうでない場合、かかる費用を開示願います

【回答】委託者ではないし、受託者でもありません。したがって、回答する立場にありません。

【質問】ホットラインセンターにてサイバーパトロール専従要員を受け入れているということですが、これは何名で、どこに所属している方ですか。また、具体的にどのような作業をしているのか教えてください。

【回答】既にお答えしている通り、回答する立場にありません。

【質問】IHCで実際に業務をやっているセンター員は何名いらっしゃるのでしょうか。
【回答】公表していません。

【質問】IHCの実際に業務をおこなっている方々がどのような形で業務をおこなっていらっしゃるのか取材させていただくことは可能でしょうか。
【回答】発注者の許可がないと、取材はできません。

【質問】この「発注者」とは警察庁ですか?
【回答】そうです。

【質問】副センター長吉川誠司氏の2006年6月13日の日記に「僕の新しい勤務先も、まがりなりにも警察庁直下の機関でもあるわけですから、それなりにセキュリティ対策には気を使っているわけですよ。」という記述があり、「警察庁直下」という見解が示されています。この「警察庁直下」とはどのような意味でしょうか。先日のご回答では財団法人インターネット協会は総務省と経済産業省所管であり警察庁とは関係ないというお返事でしたが、どちらが正しいのでしょうか。

【回答】ホットライン業務の受託契約なので、その事業についてはそうとも言えますが、財団法人インターネット協会は総務省と経済産業省所管です。

【質問】IHCで実際に業務をやっている方の人数を公表できないとのことですが、理由は? 作業実体はセンター長として把握しておられますか?

【回答】理由は、何度も回答している通りです。作業実体? 作業実態は十分に把握しています。(*)

(*)「何度も回答している」とされている情報開示の拒否理由は、先日の記事(https://getnews.jp/archives/209351 [リンク])で紹介した以下の部分を指すものと思われる。要約すれば「自分たちで公開しないと決めたから公開しない」という意味のようだ。

【質問】業務委託契約の内容を開示できない理由を教えて下さい。
【回答】財団法人インターネット協会情報公開規程(平成13年8月28日制定)で対象とされていない情報だからです。

※画像1枚目:IHCウェブサイトより引用
※画像2枚目:YOMIURI ONLINEより引用。警察側のリークを元に書かれた記事の一例。

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深水英一郎(ふかみん)

深水英一郎(ふかみん)

トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。

ウェブサイト: http://getnews.jp/

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