野村トップ辞任を機に証券会社は襟正せ
野村ホールディングスは増資の関連情報が事前に漏れた「増資インサイダー」問題の責任をとる形で、渡部賢一グループ最高経営責任者(CEO)らが辞任すると発表した。
株主総会からわずか1カ月後のトップ辞任はきわめて異例だ。他の証券会社も重く受けとめるべき事態である。
すでに野村はCEOの報酬カットや情報の伝達元だった部署の廃止など、処分と改善策を発表している。しかし、日本航空の再上場計画で主幹事のとりまとめ役から外されるなど逆風が止まらず、人心の一新を迫られた。
投資家と企業の間に立って資金を仲介する証券会社の経営が揺らげば、株式市場も安定を欠く。野村は新経営陣のもと、情報管理を抜本的に見直すなどして信頼回復を急ぐべきだ。
野村は増資インサイダー問題に関して、法律家から成る第三者委員会の調査結果を6月末に発表している。今回さらに、対象となる増資の範囲を広げた社内調査の結果も公表した。
それらによると、機関投資家に株式売買を勧める担当者は社内の人脈を使い、極秘扱いの増資情報の入手を試みた。増資を実施する企業の具体名を示唆する情報を噂と称して大口の投資家に伝え、一般の投資家より早く売却できるようにもした。
一部の投資家を利する情報提供は市場の公正さを損ない、株式取引をゆがめる。現在のインサイダー規制は情報伝達だけで罪に問われることはないが、情報を事前に知るよしもない多くの投資家にとっては公平を著しく欠く。
株式市場の不信感がこれ以上広がらないようにするために、野村のトップ辞任は先送りのできない決断だったと言える。
増資インサイダーは野村一社の問題ではない。
増資の関連情報を特定の投資家に伝える慣行は、外資系証券を含め日本で活動する大手証券の間で広まっていたもようだ。公募増資の業務に関わったことのある証券会社は情報管理の体制を点検し、必要に応じて社内処分も下すなどして襟を正すべきだ。
金融当局は国境を越えて情報が伝わる複雑な「増資インサイダー」の全容解明を急ぐ必要がある。野村のトップ辞任で一件落着となっては、企業や投資家が株式市場に抱く不信は消えない。