実体のない会社に助成金…暇なので働く

2012.06.21


ハローワークではさまざまな仕事を紹介(写真と本文は関係ありません)【拡大】

 昨年、貿易会社を退職してしばらく「暇を持て余す日々」が続いていた土屋健二さん(65)=仮名=は、ある日、ハローワークでふと目にした求人情報に応募したら、すぐに面接通知が届いた。

 仕事内容は、週2日のパートで時給1000円の営業職。同世代の社長は技術畑一筋のいわば職人で、そのノウハウを企業に新提案するコンサルタント業の会社を立ち上げたばかりであった。厚生労働省の助成事業の認可を受けていたので、月に1回のリポート提出を義務付けられていた。61歳から66歳までの6人が採用になり、全員が正社員扱いになった。

 会社は、社長の自宅マンション。4月1日の入社式は和気あいあいで始まり、その日、週1回は自宅研修と決まり、実質週1日の出勤で、当分は理論習得のために社長の講義を拝聴するという規定が示された。2カ月後から講義は半日となったが、給料は1日8時間の計算通りに支給された。

 社員に技術職出身者は1人もいなくて、講義は社長の自慢話が多く、どう考えても営業につながるとも思えなかった。半年で3人辞めたが、週1回数時間で月6万4000円の給料はいい小遣いになると、土屋さん以下3人は「つまらない講義」を聴き続けた。

 1年経っても、具体的な営業プランや指示が出されたことはなく、相も変わらず社長の独演会を聴くのが“仕事”であった。当然、売上金のない株式会社の第1期決算となった。さすがに2年目を迎えた今年3月のある日、土屋さんが今後の会社のビジョンを質問したところ、逆に2年目は助成金が下りなかったので給料を半分にすると通告された。

 4月以降もリポートは提出させられているというが、社長は「解雇するとは決して言わない」そうで、土屋さんたち“社員”も「こんな実体のない会社に助成金が使われていたのなら許せない」と言いつつ、「どうせ暇だし」とマーク付き会社の動向を楽しんでいる風である。これって…? 

 ■谷口和巳(たにぐち・かずみ) 1947年、大阪生まれの団塊世代1期生。大卒後、4つの出版社を転籍。19の雑誌に携わり、編集長として4誌を創刊。2007年4月創刊の団塊向け月刊誌「ゴーギャン」の元編集長。放送批評懇談会正会員。新雑誌「三橋一座物語」を準備中。

 

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