トンデモ情報にひっかからないように | 暇人の部屋

トンデモ情報にひっかからないように

ネットでの議論での、一つのパターンをあげておきます。

普段ネットで調べものをしたことのない人(以下、Aさん)がネットである情報を知ります。その情報について見てみると、色んなサイトで紹介されており、中には~大学名誉教授といった肩書きの人もおり、どうやらその教授先生の説だと知りました。そして、それがこのままだと大変危険な災害が起こるという主張でした。Aさんは「すごい真実を知った!」と興奮して、「みんなが知らないことは危険だ!早く拡散しなくちゃいけない!!」と、ブログやツイッター、掲示板で紹介しまくります。

すると、そのAさんの書き込みをみた人(以下、Bさん)が、「その主張は間違っているよ」と忠告します。勿論、Aさんはその先生や支持する人たちのサイトなどを引用して、「これは正しい」と主張します。しかし、Bさんは、その主張を一つ一つ引用して、間違っている、データがおかしいと具体的に一つずつその問題点を挙げていき、その情報について検証しているサイトも紹介しながら、その教授先生の主張自体がそのような理由で他の専門家の人たちの批判にさらされており、学会でも認められておらず、いわゆるトンデモ説だと説明していきます。
ところがAさんは一向にBさんの忠告を信じません。Aさんにとっては、自分は既に真実を知っており、Bさんは自分にはさっぱりわからない小難しい理屈ばかり振り回して言葉遊びをしているだけで、真実を知らない可哀想な人なのです。

B「その主張の証拠はあるの?」

A「これとそれだよ。ちゃんとその教授先生も言ってるし、他のサイトに書いてあった。」

B「いや、これはとっくに間違いだと分かってるし、それもこっちの研究結果からもっと合理的に説明できるよ。」

A「君は学会に洗脳されてしまってるんだよ。学会は教授先生のいうことを真実と認めちゃったら、その通説が崩壊してしまうから認めないんだよ。教授先生は真実を伝えようと、学会や権威に立ち向かってるんだ。世の中には分からないことがいっぱいあるのに、なんで君はそんなにはっきり否定できるんだ。」

B「いやいや、その教授先生の主張を本当だとすると、こんどはそれまでのこっちの研究結果やデータと辻褄があわなくなってしまうんだよ。分からないことは沢山あるけど、分かっていることも沢山あるんだ。そこから色々調べることも考えることもできる。そこは君はどう考えてるの?」

A「君は学会のいうデータを鵜呑みにしちゃってるんだね。学会や政府のデータが本当だとなんで信じられるかわからないよ。」

B「つまり、教授先生の主張を受け入れると他と矛盾が出来てしまうことは、全部真実が隠されているからなんだというわけだね。それじゃあ、合理的に説明できる証拠は何もないことになるよ。君は何を基準にその主張を信じているんだい?」

A「だから、証拠はあれとそれだって教授先生も言ってるじゃないか。君は論理的に考えられないんだね。」

B「いや、その証拠はおかしいと言ってるし、しかもその証拠から来る結論が他の研究も全部無視して、『真実が隠されている』という前提で、誰も確認できないことを経由しちゃっているんだよ。そういう、自分の主張で説明できないことを隠されているんだと説明しちゃうのは、「陰謀論」と言って、論理的でもなんでもない、単に妄想で補っているだけだよ。そんな説明はまったく説明になってないんだよ。しかも君は全部「教授先生が~」だけで、基本的なことも知らないじゃないか。調べてみてもそんな主張をしているのはその教授先生だけで、しかもその道の専門家でもないじゃないか。どこから見ても、単なる妄想レベルで真実なんかじゃないよ。」

A「人のことを妄想人間呼ばわりして中傷するのか!物を知らないとか、個人攻撃でしか君は反撃できないんだね。礼儀としてどうなの?」

B「いや、君の主張からはそうとしか取れないし、個人攻撃でもなんでもないじゃないか。少なくとも、もっと説得力のある論拠や証拠を出してよ。何か主張するならきちんとした根拠や証拠が必要なんだよ。君は教授先生のコピペばかりで、それが間違っていると指摘しても、それこそ何の証拠もなく、学会の陰謀で片付けてしまう。そもそもそれの研究者は沢山いて、色々検証した結果、問題がなかったから認められているんだよ。全世界の研究者をどうやって陰謀に巻き込むんだよ。まじめな研究者を証拠もなく貶める、そっちのほうが余程失礼だよ。」

A「だから、教授先生の~以下繰り返し~」

そのうちにBさん以外にもAさんの主張がおかしいと指摘する声が出てきます。すると、Aさんは、

A「大勢で僕一人を個人攻撃してる!僕みたいな素人を大勢でいじめるのが君たちのやり方だ!」

と、そこに書き込まなくなりました。Aさんにとっては、素人しての間違いを指摘されたのではなく、知識のある人間が悔し紛れに自分を苛めているとしか思えないのです。その後もAさんはその教授先生を信じている者同士でやり取りをし、その危険性の不安を共有する人たちの中で味方が多いのに安心して、その味方の人たちと、既に否定された危険性を訴えるためにブログやツイートで[拡散希望]と、広めまくってその不安を共有してくれる人を増やしつづけます。

以上は、トンデモな主張をする人の議論から、大体こうなるという議論のパターンを出してみたものです。この危険が迫っているという情報には、隕石衝突でも磁場の逆転でもノストラダムスの予言でも、フォトンベルトでも、低線量の放射性物質でも、何入れても構いません。何を信じていようと、彼らの論法に変化がありませんから。どれも当てはめられる位パターン化できるのは、詰まるところ、その主張に内容がないからです。

どうも人は、自分がこれまで知らなかったことは、学会も含めた世間一般でも知らないと思い違いをしてしまうようです。分からないことは沢山ありますが、分かっていることも沢山あって、普通、人はそこまで手を伸ばさないから知らないだけなのです。そして、そこを指摘されてしまった場合、自分の正当性を主張するために、「それは○○の陰謀だ」と、まったく証拠もなく証明も不可能な「陰謀論」を引っ張り出してしまいます。陰謀だと言われるとつい納得してしまう人もいますが、陰謀論というものは、自分の願望に沿ったいくつかの事実の一部のみ都合よく取り上げて、それを繋げるのに空想を当てはめてしまえば簡単に作れるものなのです。そして、陰謀だという直接的な証拠はどこにもないのです。寧ろ陰謀論を主張する人たちが自分に都合の悪い情報は見ない、無視する、隠すという行動をします。どっちが陰謀なの?と思うくらいです。こういう議論の流れを見ていると、陰謀を主張する人は相手から事実誤認・知識のなさを指摘された場合、それが自分の主張を崩壊させてしまうものであっても、真正面から答えません。以前書いた記事3.信頼性のある情報を見分けるの項目にある言動をしはじめ、読者の意識をまったく違うほうに向けようとします。証拠もなく「○○が隠している」「陰で○○をしている」などという話がされていた場合、まずすべきことは驚いたり本気にする前に、眉に唾をつけることです

人は、危険だという恐怖感を煽る言動に弱く、しかもネットでは掲示板やmixiの子ユニティなど、そういう人たちのネットワークが出来てしまいやすいのです。そして、それを(本人たちは善意のつもりで)他の場所に広めようとします。たまたま、その主張に触れてしまった人は科学的根拠よりも、信じている人が多く見える(そういう主張だけをする人たちのコミュニティに入ってしまえば、みんな“そう“見えてしまいます。)ほうを信じてしまい、その人たちと不安を共有してしまって、真実を知ってしまったと思い込んでしまいます。当たり前ですが、正しいか間違っているかはみんなが言っているといった、多数決で決めるものではありません。沢山の人が間違っていれば、間違いの方が多くなるだけなのです。
そして、それを『外』で主張すると、当然批判的意見にも晒されますが、それは自分たちに向けられる工作・迫害だと捉えてしまい、さらにその仲間うちのネットワークに閉じこもってしまいます。その集団からさらにその話を拡散させていくと、そういうことに詳しくない人たちがまたひっかかって、どんどん声だけ大きくなっていきます。そうやって、外部からの他の情報を、それは陰謀だと自分たちで遮断してしまって、本当の情報から背を向けて自分の不安に閉じこもってしまいます

これを読んだ人には「これはカルトじゃないか?」と浮かんだ人もいると思います。はい、まず不安を煽る手法、他者に理解されずに不安情報を共有する仲間と閉じこもってしまう心理は、カルトと同じなのです。ただ、ネットの場合はカルトのように物理的に信者で閉じこもってしまうのではなく、情報の海とでも言うべきネットの中で心が閉じこもってしまうのです。さらに問題は、それがカルト的心理だと気づく人は少ないため、不安を共有する集団の中に入り込んで安心感を得てしまったり、妙な使命感を持って他の人にも知らせようと、その間違っている話を色々広めてしまいます。当然、余計な無用な不安を吹き込まれた人たちの精神衛生上良いことではなく、場合によっては実生活での孤立、家族を巻き込んでしまったり、リアルでもその人の関係者に関わる問題になっていきます。そこまででなくとも、情報の裏をとらずに安易に広めてしまえば、自分はともかく、他者の心を危険に巻き込むことになってしまいます。

情報とは便利ですが、同時に大変危険なものです。いくらネットで情報が溢れていようと、一旦おかしな情報にはまり込んでしまったら、もう他の情報は受け入れられなくなり、大変狭い世界での情報しか自分で選択しなくなってしまいます。つまり、自分で自分の情報統制をしてしまうのです。その結果、最悪カルト的な心理にはまってしまうのです。

それから身を守るためには、結局、まずどんな情報もすぐに感情に流されずに一歩引いて、冷静に当たるしかないのです。まず、極端に不安を煽り、肝心なことは全部陰謀のせいにしてしまう情報は特に気をつけなくてはいけません。それは恐怖から信者を作る手法と同じことなのです。たとえそれが主張する本人には正義感からであっても、間違った所から出発した正義感は、悲劇か喜劇しか生みません

また、ネットで色々情報があるからと、それぞれの情報が等価であると勘違いしてしまうのも間違っています。ネットは信頼できる情報、出来ない情報、単なるデマと、玉石混交なのです。そして、残念ながら、沢山の人たちがツイッターやブログで感情に任せて拡散してしまっている現状では、石のほうが多いのです。そのためにも普段からよく調べ、自分たちが情報を判断するスキルを養わなくてはいけないのです。それがネットの情報の質を高める結果にも繋がるのです。

ネットで調べて不安や既成の物事に不信ばかり感じてしまったという人たちは、是非、一回深呼吸して自分を客観的に見てください。自分が感情的になっていないか、いたずらに不安を煽るだけではないもっと説得力のある情報がないか、今まで善意で行っていたと思っていた行為が不安を煽るだけでじゃないか、見えないところは陰謀のせいにしていないか、それだけでもかなり情報の見え方が違ってくるはずです。

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