「原発警戒区域のままがよかった」福島県楢葉町の地元が警戒線解除に反対する5つの理由

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「夜間現場内で作業している人は不審者です」との看板

楢葉町の警戒線解除に地元町民が反対する5つの理由(要約)

まとめると理由は5つ。

1. 誰でも立ち入れるが宿泊は禁止。つまり夜間の町内は無人状態。すでに多くの盗難が発生しているが、さらに盗難が増加し町内の治安は悪化する可能性がある。

2. 反対の声も多い中、町からの説明が不十分なまま解除が決定されたという経緯がある

3. 水、下水、電気などのライフラインがまだ復旧しておらず、病院もスーパーも再開していない

4. 帰りたくない住民への配慮がない

5. 除染がまだ不十分

以下、詳細です。

検問の様子(2012.8.10)

東京電力福島第一原発事故により大半が警戒区域内に指定されていた福島県楢葉町は、8月10日に警戒区域が解除され、避難指示解除準備区域となった。検問の写真は解除直後のもの(8月10日撮影)。

これにより、これまでJビレッジ前に設置されていた警戒区域の検問は撤去され「避難指示解除準備区域」となり、町は自由に立ち入ることができるようになった

その準備のために、7月下旬、町内では多くの除染作業員たちが町内の幹線道路である国道6号線沿道の雑草などを刈り取り清掃作業に追われていた。

除染の様子 福島県楢葉町の地元が警戒線解除に反対する5つの理由

「お盆の前に、町民が町に自由に立ち入りできるようにしたい」という松本幸英町長の意向により、町議会の承認を経て行われたこの警戒線見直しだが、町民からは不評だ。

「しばらくの間は、警戒区域に指定していてほしかった」という声が多い。
「ふるさとに自由に帰ることができるのに何故?」と不思議に思うかもしれないが、それにはおおきく5つの理由がある。

1. 町内の治安の悪化、盗難の増加

避難指示解除準備区域となった楢葉町は町民をいずれ帰還させることを前提に、町内の除染、インフラの整備を急ぐという方針を打ち出した。だが現在、町民は自宅に自由に通行することはできても、自宅に宿泊することは禁じられている

これまでも双葉郡内の警戒区域内のエリアは、民家や商店などへの盗難の被害が相次いでおり、今年4月の段階で120件もの盗難被害が確認されている。

今後は警察の検問なしで夜間に無人となるエリアに誰もが立ち入ることが可能となるため、夜間の盗難などが増えるのではないかと心配している町民は多い。

楢葉町は警戒区域が解除された5番目のエリアだが、楢葉町に先駆けて南相馬市小高区の警戒線が今年4月に解除された。小高区も、楢葉町と同じく「避難指示解除準備区域」で、楢葉町と同じく夜間の宿泊は禁じられている。現在、小高区の町を歩くと盗難の被害にあったATMなどを多く確認することができる。

楢葉町 盗難にあった自販機

盗難にあった自販機の写真等は8月10日本日、警戒線解除直後の楢葉町内のもの。

楢葉町 盗難にあった商店 窓が割られている

2. 町からの説明が不十分だった

楢葉町は今年4月15日に町長選が行われた。
これまで五期二十年を勤めた草野孝町長(当時)が引退を表明、選挙の前々日である4月13日に、政府からの意向を受けて、避難指示解除準備区域の指定を受け入れる意向を表明した。

発表の直前までは3日間にわたって住民説明会が行われ、そこでは警戒区域の解除に反対する町民の声が相次いだにも関わらずである。

もう引退することが決まっている前町長が、受け入れの意向を表明し、松本幸英町長がそれを引き継ぐような形になった。

その後、福島県内外に避難している住民を対象とした町政懇談会がすべて終了するのを待たずに松本町長が警戒区域解除を正式に発表した。

3. インフラが整っていない

震災直後から、母親の介護のため一度も自宅を離れず、警戒区域内に1年5ヶ月にわたって住み続けている楢葉町の伊藤晋さん・巨子さんの自宅は、今も断水が続いており、一週間に2度ほど警戒区域外の消防署まで水を汲みにいく生活を続けている。

自宅はたまたま下水につないでいなかったことでトイレの使用はできるが、海岸べりにある下水施設は今はも津波の被害で大破したまま。

町のほぼ全域は電気も通じていない。

病院もスーパーマーケットも再開の見通しはない。

町の検問が解除されたからといって、すぐに住めるという状態にはなっていないのだ。

4. 帰りたくない住民への配慮がない

楢葉町は双葉郡内では線量が低く、国道六号線周辺の平地は0.5~1μSv/h程度のエリアがほとんどだ。
とはいえ積算線量に換算すると5~10mSvもの外部被爆をすることになる。
子どもがいる家庭などは帰る決断はとてもできないだろう。
ところが国の避難指示解除準備区域指定がいずれ解除され、町が住民の帰還計画が実現した場合、帰りたくない人たちは「自主避難」扱いとなり、東京電力からの賠償などに差が付けられる恐れがあり、それを危惧する町民は多い。

5. いいかげんな除染

記者が今年4月に町内を視察に回っていたところ、たまたま出会ったのが会津若松に存在するA建設会社で、除染のための調査を行っている最中であった。

彼らの話では「川底の除染はしない」という国の方針が既に決定しているということだった。理由は、水は放射線を遮蔽するため、川底にたまった放射性物質から放射線が水面から空中には出てこないためということだった。そのため除染する必要がないということだった。

避難指示解除準備区域では、製造業などの事業の再開は許可されている。だが、川を除染しないことには工業用水はとれない。これらの事業が復活しないと、町の産業は再興しないため、雇用も生まれない。

建設会社の人は「土を削って雑草を刈り取ったあとの仮置き場に莫大な敷地が必要となる、それを確保するのが非常に大変だ。その仮置き場を確保し、除染を開始するとなると、完了して住民が帰れるのは4年後よりもっとあとじゃないか」という実感を教えてくれた。

また、双葉郡は70パーセントが山林であるが、山林の除染は人が居住している場所半径20メートルのエリアしか除染を行わないという方針を国が打ち出しているため、さきごろ双葉郡の8町村が細野原発担当大臣に抗議をしたところだ。

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※「原発20キロ圏内のリアル」は、福島第一原発警戒区域20キロメートル圏内の現在の姿を写真とともにお届けする連載企画です。

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木戸川シャケ

連載「原発20キロ圏内のリアル」で福島第一原発警戒区域20キロメートル圏内の現在の姿を写真とともにお届けします。

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