インタビュー:横山智佐子「監督が旦那さんなら編集者は奥さん」
 『エイリアン』『グラディエーター』など映画史上において幾多の金字塔を打ち建ててきた、生きる伝説リドリー・スコット監督の最新作『プロメテウス』が8月24日(金)より公開される。本作は、リドリー監督自らのアイディアを基に、人類史上最も深遠にして根源的なテーマ“人類の起源”に挑んだ、究極の3Dエピック・ミステリー超大作だ。

 今回、リドリー監督を始め、多くの名監督の作品に参加し、日本人のハリウッド映画編集者として第一線で活躍をしている横山智佐子さんに本作の見どころや、日本とハリウッドの映画の違いについて語ってもらった。横山さんは、『プロメテウス』の制作には参加していないものの、本作でリドリー監督とタッグを組むピエトロ・スカリアとのコンビで有名。制作サイドから観ると、本作は一体どのような作品に見えるのか。また、本格的な映画学校を開校した横山さんが指導者の目線から、ハリウッドで成功する方法を教えてくれた。

――本作をご覧になった感想を教えて下さい。

横山智佐子(以下、横山):ビジュアルがやはり素晴らしいです。近年のテクニカルな進歩といいますか、CGの世界もここまできたか、という感じですね。

――VFXのディレクターを他の作品でもやられていますが、「ここまできたか」という差はどういうところで感じましたか?

横山:やはりスケールの大きさといいますか、あとはリアリティですよね。最近のものは、どこまでが撮影の部分で、どの辺からCGが入ってきているのか区別がつかなくなっていますよね。

――他にも本作の中で気になった点はありますか?

横山:やはり、各キャラクターの面白さじゃないかな。CGももちろんすごいけど、登場人物の面白さがないと映画というのは成り立たない部分があるので。ミステリアスな部分があって、アンドロイドが非常に気に入りました。

――現在、ハリウッドでご活躍されていますが、今の若者たちがハリウッドデビューするためには、まず何を始めるべきだと思いますか?

横山:まずは、向こうへ行ってみなくちゃダメです。ハリウッドでどういう風に映画が作られているのか知らない日本の方が多いんですよね。日本の業界の方や日本の学校でもあまり知られていない。日本と全然やり方が違うんです。ハリウッドの方が絶対に良いという訳ではないけど、どちらの良いところも悪いところも見ながら、今後の若い方に「自分なりの良いものがどういう風にしたら作れるのか」ということを知って欲しい。日本の中だけにいたら世界は見れないですよね。

――具体的にハリウッドと日本では、どんな部分が違いますか?

横山:日本は、監督が好きなように映画を作れるので“監督天国”と言われています。でも、向こうはそうじゃなくて、プロデューサー全員のOKが出ないと映画が終わりにならない。さらに、映画を完成させる前に観客にも見せるんです。200名なりの観客に見せて、その人たちからスコアを取って、それが良くならなければ映画の制作が終わりにならない。そこで編集を重ねていくんです。編集って非常に重要な部分で、日本では撮影が終了してあがってきたものをつなぐだけというイメージしかないと思うんですけど、ハリウッドでは撮影と編集が同時に行われます。編集に5カ月、8カ月、ひどい時には1年、1年半も時間を費やしているんです。その間に、長いものがどんどん短くなっていったり、シーンを落とされたり、シーンを入れ替えるとか。さらに、編集の中で「ここ足りないんじゃない?」というところを撮り直したり、ボイスオーバー(画面に現れない話者の声を用いる表現方法)もそうですね。編集が非常に重要なキーポジションなんです。

――映画の編集の仕事とはどんなものですか?

横山:映像を切ってつなげるのはごくごく基本的なこと。1番大事なところは、つながってからなんです。2時間、2時間半の作品を作るところで、どうやればうまくストーリーテリングするのか。これが面白い映画の一番良いところは、何かを見つけて、そこをどういう風にお客さんにアピールできるか。これが編集ですね。

――やりがいを感じるのはどんな時ですか?

横山:やはりオーディエンスからのリアクションがきてからですよね。『グッド・ウィル・ハンティング』では、オーディエンスに見せる前に何度もやり直したんですよ。だから、やり手としては麻痺しちゃって、良いとか悪いとか分からなくなってしまっていたんですよ。でも、オーディエンスに見せたら、横で泣いているんですよ。それを見て「あ、これってひょっとして良い映画なのかな」と、そこで初めて思ったんですね。そういうところで、“編集ですごいことができるんだ”ってやりがいを感じました。

――横山さんが一緒に仕事をしてきたピエトロ・スカイヤは、リドリー監督とずっと組んできていますよね。監督と編集者はそういう風に同じ人と組んでやることが多いのですか?

横山:ありますね。編集者って奥さんみたいなものなんですよ。監督が旦那さんなら編集者は奥さん。もちろん、監督に悪いところはガンガン言いますが、あくまでも監督を立てる形で進んでいきますね。編集者によっては、プロデューサー側についちゃったりもするんですけど、彼は、絶対に監督の横に立つ。監督が間違ったことをしても監督を支持していくというスタンスの人。非常に才能もある方なので、監督も気に入ったんだと思います。
リドリー監督ってどちらかというと、非常にビジュアル感覚はある人なんですけど、ストーリーテリングの弱い部分があったりもするので、彼がそこをうまくサポートしていますね。

――『アメリカン・ギャングスター』『ハンニバル』など、リドリー・スコット監督の作品の編集を何回も経験されてきていますが、監督はどういう人物ですか?

横山:アメリカ人独特の“トゥー”フレンドリーなところがなくて、イギリスの方だな、という感じですね。フレンドリー過ぎない。あまりニコニコ笑ったりしない方ですね。

――作品の印象からすると、とても気難しくて、なかなか声を掛けられない人なんではというイメージがありますが?

横山:そういう雰囲気は持ってますね。特に、サーの称号を持っている方なので、簡単に「はい、リドリー!」とか言えないですよね。でも、みんな編集室では「リドリー!」と呼んでいますね。1回お話してみると、そんなに気難しい方でもないですし、ご本人は気にされていないと思います。でも、ピエトロとはよくやり合っていますね。あーでもないこーでもないとケンカしています。