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若者も増えている 移住生活
murayama
村島正彦
2014年4月15日 (火)

渋谷区から熊本へ! 家賃3分の1で広さ2倍の「町家暮らし」は冒険

「暮らしかた冒険家」の池田秀紀さんと伊藤菜衣子さん(写真撮影:伊藤菜衣子)
写真撮影:伊藤菜衣子

「ぶっちゃけ、キライなことから逃げ続けたらこうなったんです…」
そう語るのは“暮らしかた冒険家”という夫婦(めおと)ユニットを名乗る妻・伊藤菜衣子さん(30歳)。結婚前から住み慣れた渋谷区富ヶ谷のアパートを引き払い、熊本市の築100〜120年の町家に越してきたのは2011年夏のことだ。

渋谷区から熊本へ! 家賃3分の1で広さ2倍の「町家暮らし」は冒険

【画像1】「暮らしかた冒険家」の池田秀紀さんと伊藤菜衣子さん(写真撮影:伊藤菜衣子)

ほぼ廃墟の町家改修は、Do It With Othersで!

二人が、この廃屋同然の町家に出会ったのは「二度目の新婚旅行」先でのこと。熊本に居を構える異才建築家・アーティストの坂口恭平さんを訪ねたときだ。

「17年くらい人が住んでいなくて、ゴミだらけ荒れ果てていた。でも、これは化ける!って興奮して、スグに移住を決めました」と菜衣子さん。一旦東京に戻って、翌月には富ヶ谷を引き払い熊本に舞い戻った。「そのままで住める状態ではないことは自明だったので、1カ月は市内のマンスリーマンションを借りて、その間に何とかしようと皮算用したけど甘かったですね」と“冒険家”夫の池田秀紀さん(34歳)は苦笑いする。

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【画像2】17年間人が住んでいない町家はゴミだらけ、荒れ果てていた(写真撮影:伊藤菜衣子)

「さてDIYで、住めるように手を入れようと思ったら夫は何もできない、頼りにならなかった(苦笑)。町家に住んでみたいと思ったはいいけれど、はなから想定外のドタバタに見舞われました」(菜衣子さん)

吊り天井を外す、キッチンの床張り、大きな壁の漆喰塗り…二人には手に余る改修作業が目の前に立ちはだかった。次第に「DIY鬱」になったという。「ふつうは、壁紙貼りとか、その程度のことをDIYでやるもんですよね。ここはDIYの域を超えていた」。そこで方針を切り替え、プロでしかできそうにないところは業者に依頼した。壁の漆喰塗りはワークショップ形式とし、友人・知人らの協力を得た。「Do It Yourself じゃなくて、Do It With Others。DIWOです!」

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【画像3】タイムオーバーでDIYをあきらめ、プロの左官屋さんに助けてもらった(写真撮影:伊藤菜衣子)

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【画像4】近所の人を巻き込んで漆喰塗りワークショップ(写真撮影:伊藤菜衣子)

必要なのは「台所、机と椅子とインターネット」

「住宅は住むための機械」と言った高名な建築家がいる。二人に、住むために最低限必要なものは何かと聞いたところ「台所、机と椅子とインターネット」という返事がかえってきた。現代では、インターネットは、水道やガス、電気と並んで必要不可欠なインフラなのだ。

当初の予定を超えて1カ月半後に住み始めてみたものの、キッチンはない、傾いた床に畳はない……最低限、雨露しのげる状態。傾いた床で眠ると足が浮腫むことを知ったという。また、縁側の建具が間に合わなかったので、最初に夏に買ったのは蚊帳だった。川辺の町家には、蚊が大量侵入するので、寝るのも仕事をするのも打ち合わせするのも蚊帳のなかだった。まさに、「冒険」としての暮らしの始まりだ。住み始めて以降も、改修作業は引き続き行われ今に至る。完成は……ない。

そして、必要なものは、吟味して選ぶ。気に入ったものを手に入れることに苦労は厭わない。
例えば、ヤフオクでコレと見初めた中古の業務用キッチン作業台とガス調理台は合わせて約10万円という具合だ。キッチン棚は、リンゴ箱をペイントして並べた。

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【画像5】ダイニングキッチン&ワークスペース。生活にも仕事にもインターネットは必要なインフラだ(写真撮影:伊藤菜衣子)

他にも建具や照明などの調度品は、知り合いの工務店からもらったものが多いという。見る人によってはがらくた・廃品だけど、それらは二人の審美眼に合格した味わいのあるモノばかりだ。
ただし、全てに倹約を強いている訳ではない。寒さが沁みる町家暮らしだが、その解決に威力を発揮したのは薪ストーブだ。ストーブ本体が35万円、煙突に10万円を要した。こだわりのモノには、費用は惜しまない。

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【画像6】知り合いの工務店からもらった中華鍋をリメイクしたランプシェード(写真撮影:村島正彦)

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【画像7】寒い町家暮らしでは薪ストーブで暖を取る(写真撮影:池田秀紀)

冒険家が目指すのは「高品質低空飛行」の暮らし

さて、暮らし向きはどうだろうか。かつての富ヶ谷のアパートの家賃は10万円。一方、熊本の町家は3万円で借りている。「町家の広さは80㎡くらい。家賃が3分の1で広さは以前の倍です」(秀紀さん)。

仕事・収入面はどうだろうか。秀紀さんがウェブのデベロップメント&デザインの仕事を、菜衣子さんがカメラマンとしての仕事と秀紀さんの仕事のマネジメントを担当している。いずれも、東京での取引先と継続して仕事を続けている。もちろん熊本で得た仕事もある。熊本に移住して、少し収入は落ちたものの、それは意図的に減らしたこともあり、水準はあまり変わっていない。平均すると月に1度ほど打ち合わせのために熊本と東京を往復している。ただし熊本からLCCが飛んでいることもあり、安価に往復できるという。

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【画像8】屋根裏のベッドルーム。床の傾きはベッドとなる板の重ね方で調整(写真撮影:伊藤菜衣子)

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【画像9】屋根裏から広間を見下ろす(写真撮影:伊藤菜衣子)

二人にどういう暮らしを望んでいるのか?と問うと「高品質低空飛行の暮らし」と答えが返ってきた。
「私たちは、親たちの世代よりも金銭的に豊かになることはないだろう、という認識が基本にあります」。そのうえで「ウソがキライ」だという。「例えば木目調のトタンや合板プリントのフローリングのようなフェイクなもの」。本物であることにはこだわりたい。

これは、住まいだけに限らない。食べ物や着るものも、質の良い・長持ちする本物を選んでいるという。「倹約するところはするけど、浮いたお金で美味しいお寿司は食べに行きたい」。
本物を求める「高品質」と、それを経済的にはムリはせずに「低空飛行」していこうという意気込みだろうか。

お金に替わるもの。仲間を増やすことが人生のリスクヘッジ

「これからは、お金よりもたくさん知り合いを増やすことが、長い目で見たら人生のリスクヘッジになると思うのです」と語る。

同世代で熊本の山間部で農業に取り組む友人がいる。志をかって彼のウェブサイト(http://boshidora.com/)をつくる仕事を引き受けた。その対価はお金ではなくて「一生分の野菜」だ。二人はそれを「物々交換」ならぬ「物技交換」だという。「熊本では、米が底をついた…と言えば、持ってきてくれる知人が沢山いる。ストーブの薪も物技交換の賜物だ。ほんと喰うに困らない生活を確立できた」と笑う。

他人からは羨ましく見える町家暮らしも、実は楽しいことばかりではない。意見の相違で夫婦喧嘩も絶えないという。「離婚の危機もたびたびです。だけど、ちょっと待てよ。我々の敵は他にいるって気づいてハッとするんです」と打ち明ける。世の中に対してイヤなことが同じっていうところが、二人は一致しているのだという。「町家暮らしが羨ましい。そんな生活に憧れる、って言われますが、嫌いなことから逃げ続けた結果がコレなんです」

そして「この暮らしは自己満足」なんだと自分たちを客観的に分析する。他人からは破天荒に見えるかもしれない。従来の価値観に囚われない暮らしがそこにある。2014年夏の「札幌国際芸術祭2014」には「二人の暮らしそのものを芸術作品」としての出展が決まっているという。夫婦の冒険はまだ続きそうだ。

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【画像10】「宝石の原石はすでにある」。二人の掲げるキーワード(図版提供:暮らしかた冒険家)

●暮らしかた冒険家 池田秀紀+伊藤菜衣子
高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索中。 100万人のキャンドルナイト、坂本龍一のソーシャルプロジェクトなどのムーブメントのためのウェブサイトやメインビジュアルの制作、ソーシャルメディアを使った広告展開などを手がける。2014年夏、札幌国際芸術祭 2014への参加が決定、次なる冒険に備えている。
●暮らしかた冒険家 #heymeoto
HP:http://meoto.co
●札幌国際芸術祭 2014
HP:http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/3c791b3f9cce17f7ea0b421f63323f3f.jpg
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