「火星で生きられる微生物」を作成する研究

火星の極限環境でも生き延びて、人間のコロニーに必要な資源を作り出せる微生物を開発するための研究が行われている。
「火星で生きられる微生物」を作成する研究

NASAの火星探査機「オポチュニティ」が撮影した火星のエンデヴァー・クレーター。IMAGE BY NASA/JPL-CALTECH/CORNELL/ASU

スタンフォード大学とブラウン大学の学部生からなるチームは、合成生物学を宇宙探査に適用し、火星の極限環境でも生き延びて、人間のコロニー(日本語版記事)を持続させるのに役立つ資源を作り出せる微生物を開発しようとしている。

このプロジェクトは「International Genetically Engineered Machines(iGEM)」という取り組みの一環だ。iGEMは毎年開催されている合成生物学コンペで、世界中の学生たちが互いに競い合い、生きている細胞を巧みに操作して新しい機能を果たさせることを目指す

10月に行われるiGEMの地域大会では、ブラウン大学のベン・ゲイリックのチームが、「Hell Cell地獄の細胞 )」と彼らが呼ぶものを発表する予定だ。Hell Cellは遺伝子操作された一連の細胞要素で、バクテリアが厳しい寒さ、乾燥、放射能に耐えられるようにする。

火星には過去のある時点で生命がいた可能性はあるが、現在の環境は生命に向いているとはいえない。火星地表の平均温度は摂氏マイナス80度で、大気はほとんど存在しないし、その95%が二酸化炭素だ。また水分に関しては、火星の氷冠には水が存在しており、かつては巨大な海で覆われていたといういくつかの証拠があるものの、現在は基本的に凍った砂漠だ。

Hell Cellは、「BioBricks」という遺伝子モジュールを含んでおり、さまざまな超耐性を持つ生命から得たDNAをベースとしている 。「凍結防止」たんぱく質を作り出す耐寒性種のシベリアのカブトムシや、大量のマンガンイオンを取り込む放射線耐性菌(日本語版記事)、耐寒性と耐乾燥性をもたらす栄養素を作り出す大腸菌などだ。

実験を行うスタンフォード大学とブラウン大学のチーム。PHOTO BY LYNN ROTHSCHILD

一連のHell Cellのほかにも、ゲイリック氏のチームは、火星の堆積物からミネラルを抽出したり、あるいは探査機の電子機器からレアメタルをリサイクルするバクテリアを開発中だ。

チームはさらに、建造物をつくるためのセメントのような物質を作り出すバクテリアや、ほかの微生物の栄養となる糖分を作り出すバクテリアも設計している。

こうした微生物は将来、人間のコロニーに役立つだろうが、火星に微生物を送り込むことには倫理的な懸念もある。研究チームは、現在生命が存在していれば問題もあるだろうが、生命がいないのであれば問題ないという立場だ

同チームはさらに、金星大気に浮かぶ酸性の雲の中で、生命が生存できるかどうかについても研究を行っている。現在の金星表面は生命が存在できない環境だが、かつて金星の海で生命が発生し、進化の結果、雲のなかで生存を続けている種がいるかもしれないという説 があるのだ。研究チームは、地球大気の雲に生息する細菌を、酸性の環境でも生き延びるよう改変するという研究を行っている。

TEXT BY TANYA LEWIS
TRANSLATION BY ガリレオ -向井朋子

WIRED NEWS 原文(English)
※この翻訳は抄訳です