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〈ハード・ミニマル鬼神〉としてのジェフ・ミルズ再考! そして最高!

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2012/11/02   19:00
更新
2012/11/02   19:00
テキスト
文/石田靖博


長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!



10月29日の〈DOMMUNE〉にて、あの宇宙飛行士・毛利衛とのトーク・セッションと、映画「メト ロポリス」に自身の音楽をミックスするパフォーマンスを行ったテクノ宇宙人、ジェフ・ミルズ。このときの内容がまさに最近のジェフのイメージ通りで、

(1)宇宙っぽい
(2)壮大でコンセプチュアルなアート指向

であり、ジェフの活動自体、近年はこの2点が柱だったから当然なのだろう。

しかし、しかしだ! 90年代にテクノの薫陶を受けたテクノ中年にとってみたら、当時のジェフの衝撃は尋常じゃなかった。何が衝撃だったかと言えば、DJプレイでしょう。ジェフに対して〈まだ見ぬ強豪〉としての幻想がパンパンに膨らんでいた95年の初来日時、かつては田中フミヤのホームとして関西テクノ好きの聖地であった難波ロケッツで観たジェフのプレイはスゴかった、スゴかった。あっと言う間にピッチを合わせ、1分に1枚ぐらいのペースでガンガンミックスし、プレイの終わったレコードがバンバンと積み重なっていくという壮絶すぎるプレイはいまだに筆者のテクノ原体験の一つであり、人生における大興奮体験のTOP5に入るほどである。

ルックスもいまとなっては柔らかくなって見慣れたからいいけど、当時はもっとヒリヒリした雰囲気が出ていて、坊主時代のリッチー・ホウティンにすら声をかけてサイン入り2ショット写真をゲットしたミーハーな筆者でさえ、恐ろしくて遠巻きに観察することしかできなかったのも記憶に残る。この当時のとんでもないDJぶりは、2回目の来日時に新宿RIQUIDROOMで収録された『Mix-Up Vol.2』(再発を祈念!)で体感できるのだが、初来日のときのプレイはもっとカオティックだったんだよ! ジェフの人間業を超えたDJプレイは2004年に「Exhibitionist」としてDVD化されたが、初来日時のカオスぶりからは相当洗練された内容なのだ。

そんなジェフのレーベル=アクシスが20周年を迎え、それを記念した、実質的にはジェフのベスト盤である2枚組コンピ『Sequence: A Retrospective Of Axis Records』がこのたびリリースされた。Disc-1はここ最近のスペイシーな純正デトロイト・テクノ集で宇宙遊泳気分が味わえるが、90年代テクノ好きはDisc-2で荒ぶる! ロバート・フッドとのH&M名義での緊迫ハード・ミニマル“Real Life”、ハード・ミニマルのド名盤『Waveform Transmission Vol.3』で1、2を争う名曲“Life Cycle”、パーカッシヴ・ミニマルの先駆けかつ決定打となるパーパス・メイカーからの“Automatic”“The Dancer”……そしてどれだけのDJが、どれだけの夜を盛り上げたかわからないぐらいにプレイされた、問答無用のキラー・チューン“The Bells”(この曲がミックスされてきたらすぐわかるのが筆者のささやかな特技の一つ)。

さらにはハード・ミニマルを生み出した歴史的一歩の作品『Waveform Transmission Vol.1』に収録の90年代前半を象徴する特大アンセム“Changes Of Life”ーーこの曲は、伝説のイヴェント〈RAINBOW 2000〉を取り上げたNHKの特集番組で石野卓球がプレイしているところが放映されたことで有名だったりするーーなど不朽のミニマル世界遺産ばかりですが、個人的に今作の白眉にして究極のミニマルだと思うのが“Step To Enchantment(Stringent)”!! ジェフをはじめ、これを2枚使いとかしたりしたDJがどれだけいたか。曲が短い以外に欠点がない完璧さ! 一生聴いていたい曲! ……ということで、〈ミニマル・テクノとは何か〉という問いにいまならこう答えます。

〈このベスト盤のDisc-2を聴け!〉と。



PROFILE/石田靖博


クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→久々に復活する〈electraglide〉や〈WOMB ADVENTURE〉と大イヴェントが多くて楽しみです(あとPerfumeのライヴ・ヴューイングも)。