認知症高齢者の在宅シフトを促すには
介護が必要な認知症の高齢者は300万人を超え、この10年で倍増した。2025年には470万人に達する見通しで、今や認知症は年をとれば誰もがなりうる"身近な病気"ともいえる。
精神科病院には約5万人の認知症患者が入院している。徘徊(はいかい)など症状が悪化し、介護に疲れ果てた家族が高齢者施設を探しても満員で入れず、やむなく精神科を頼る例が多いためだ。
厚生労働省が13年度から始める認知症施策の5カ年計画をまとめた。発症初期のうちに高齢者宅を訪れる看護師らの支援チームをつくり、症状に応じて助言する。早期治療に対応できる医療機関を整備し、高齢者が家で過ごす「在宅」ケアへの移行を促すという。
できることなら住み慣れた家で暮らしたいと願う高齢者は多い。長期入院できる病床が減っている現状を考えれば、早期診療に力を入れ、在宅シフトを促す施策は進めるべきだ。
だからといって、在宅ケアの前提となる地域の医療や介護の体制が十分に整っていないのに、退院促進ばかりが先行すれば、結局は本人と家族の双方が苦しむことになる。一人暮らしや夫婦だけの高齢者世帯は増えており、個人で背負うには限界がある。
新施策は肝心の在宅ケアを支える人材確保の具体策を示していない。介護従事者が増えなければ、訪問介護はもちろん、家族が困ったときに頼れる高齢者施設も不足したままになってしまう。
政府は4月、在宅シフトの目玉の施策として看護師らが昼夜を問わず高齢者宅を訪れる介護保険適用のサービスを導入した。だが、利用できる地域は全国で189自治体と12%にとどまる。人材を確保できない事業者が多いためだ。
今の介護保険は介護が必要と認定された高齢者が利用できる。
介護の必要度合いが低い人が掃除など生活を助けてもらうサービスにも適用される。保険財政が逼迫する現状を考えれば、こうしたサービスは保険の対象外にするなど精査することで、介護従事者の確保や施設の整備につなげ、重度の人が必要なサービスを受けられる制度設計に見直すべきだ。
家族の介護のために離職する働き盛りの管理職もじわじわと増えている。介護離職は企業にとっても、日本経済にとってもマイナスだ。在宅シフトの実現は在宅ケアを現場で支える人がいてこそだ。