10/27(土)に行われたイベントで、春日の「変なマイクの持ち方」に湧く会場の様子。左から瞬間メタル・タケタリーノ山口、ハマカーン・浜谷、くじら、オードリー・若林、オードリー・春日、どきどきキャンプ・佐藤。

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地上波で放送されるゴールデンタイムのクイズ番組などに出演している時と、深夜ラジオやCSの番組に出演している時とで、印象が変わるお笑い芸人は少なくありません。

単純に見ている人の数から言えば、ゴールデンタイムに出演している時の姿がその芸人の「一般的なイメージ」になります。毒舌や過激なキャラクターが売りでも、健全でわかりやすい笑いが求められがちな地上波(特にゴールデンタイムや朝、お昼の番組)では、“地上波仕様”にシフトして活躍するのが芸人のすごいところ。一方で深夜ラジオやCS放送では、ある意味解き放たれたディープな芸風を堪能することができます。

先日、CSフジテレビONEにて放送されているオードリーの冠番組『おどおどオードリー』のDVDが2巻同時発売されました。

一般的にオードリーといえば、若林は「人見知り」「女の子が苦手」といった繊細そうなイメージが、春日は「熟女好き」「ケチ」「動じない男」といったモンスター的なイメージが強いかもしれません。しかし、今回発売されたDVDのタイトルは、『地上波では流せない自由すぎて危ない若林編』と『春日って普通のオジサンじゃねぇか?』という、イメージとは真逆のもの。

『〜若林編』に収録されている企画「内弁慶若林のクイズこれが本当の俺だ」では、地上波だと他の出演者に気を使ってなかなか本来の自分を出せないという若林が、春日に加えダブルネーム・ジョー、どきどきキャンプ・佐藤満春、ハマカーン・浜谷健司、ビックスモールン・ゴン、Hi-Hi・岩崎一則、くじらといった気心の知れた芸人たちを解答者に迎え、“若林クイズ”を行っています。
そのMCぶりは、ひと言で言えば傍若無人そのもの。
男同士でキスをさせたり、カメラのない場所でケツバットをくらわせたり……。

さらに、『〜春日編』に収録されている「おどおどファミリー 徹底討論!ガチンコお悩み相談SP」では、“熟女好きキャラ”がブレまくっている春日を若林が告発。実際は若い子が好きで、ゴルフをやっていて、車を買おうとしている春日に「普通のおじさんじゃねぇか(笑)」とツッコミが入るのです。

イメージを破り、キャラクターが崩壊する。
地上波と逆転現象が起こってしまうような“何でもあり感”が『おどおどオードリー』の魅力です。
この番組にはとにかく女性が出てきません。出演しているのは、オードリーと“芸能界最弱”と言われる「おどおどファミリー」の男性芸人たちがほとんど。彼らが白ブリーフ一丁で大騒ぎをしている光景は、教室の隅で悪ふざけをしている男子のあまりのくだらない会話に、思わず吹き出してしまった学生時代の休み時間を思い出させます。

10/27(土)に都内で行われたDVD発売記念イベントには、オードリーと「おどおどファミリー」のどきどきキャンプ・佐藤、ハマカーン・浜谷、瞬間メタル・タケタリーノ山口、くじらが集結しました。
5月に2巻同時発売されたDVD第1弾と先日発売された第2弾の4巻すべてを購入し、抽選で選ばれた限定180名が参加したこのイベントには、1000通以上の応募があったんだそう。

これを聞いて、「勢いが止まらないっすね」と言ってのける若林に対し「そろそろラクにしてもらいたいぐらいだね」と乗っかる春日。すると若林が「大丈夫です、だんだんラクになってますから」といなします。さらに、「今日はマスコミが入ってないんで、放送禁止用語とか言っても大丈夫ですよ。『トゥース』とかも全然大丈夫です」と続けると、春日は「トゥース!」と絶叫。すると若林は「でも今はツイッターとかがあるんで、『春日がトゥースって言ってました』って投稿されて、干されるかも……」と返します。

ネタではツッコミ役でありながら、イベントではボケまくる若林。今ではすっかりツッコミのイメージが根付いていますが、もともとコンビを結成した当初はボケ担当で、春日がツッコミ役を担っていました。おそらく当時は、学生時代の関係性をそのままコンビに採用したのでしょう。それが本来の姿なのだとすれば、若林がボケて春日がツッコむ割合が増える現場ほど、オードリーにとっての「ホームな場所」ということになるのかもしれません。

「おどおどファミリー」が集まった結果、イベントは終始くだらないトークの応酬になりました。
一番の先輩芸人であるはずなのに「OUTLET」と書かれたビニール袋を被ってイベントに登場させられたくじらは、そのイジられキャラぶりを存分に発揮。今後やってみたい企画について「今度はこのメンバーで極道映画を撮ってみたい」と話す若林に「それ、この間『アウトレイジ ビヨンド』観に行ったからだろ(笑)」と的確にツッコんだまではよかったものの、「西田敏行さんっぽい」と若林に指摘され、浜谷から「くじらさん、(西田の演じた役を真似て)関西弁ですごんでみて」とムチャブリをされてしまいます。素直に西田敏行になりきり「いてまうぞ、こら〜」とすごむくじらでしたが、観客の反応はイマイチ。その光景を見て芸人たちは、キャッキャと嬉しそうに笑っていました。

さらに、なかにはこんなオードリーらしいやりとりも。
イベントに登場した時点から、マイクを右頬にあて、右肘を高くあげて斜めにするという“変なマイクの持ち方”をしていた春日。しかし、春日が変なマイクの持ち方をしたり、普通とは違った言葉使いをしたりするのは今やおなじみの光景です。DVDを4巻すべて購入しているようなファンにしてみれば、なおさらのこと。会場中で春日の“変なマイクの持ち方”を気にしている人は、おそらく一人もいなかったでしょう。しかし、イベントが中盤に差し掛かったところで、若林が突然春日に向かって「お前、何その持ち方。いつからやってんの?」とツッコんだのです。この意外なタイミングでのツッコミに、会場中が大爆笑。

春日「オープニングからずーっとこの持ち方でお待ちしてましたよ!」
若林「いや、たぶん目には入ってたんだけど、『何これ』って思ったのは今なんだよ。ごめんごめん」
春日「頼むよ〜」
若林「でも、こうやっていろいろトークしてるのに、端でこんな持ち方されてたら邪魔じゃない?(と、他の芸人に問いかける)」
春日「だからこそオープニングで(このボケを)潰しておけって話なんだよ!」
若林「(春日のマイクの持ち方を真似して)今、俺もこうやって持ってみて思ったけど、お前やっぱりハート強いね(笑)。だってこの持ち方は・・・サムいもん!肌寒い!カーディガン一枚はおらないとできないよ」
春日「それを私は(半袖で)ぶるぶる震えながらやってるわけだからねぇ」

と、やりとりの一言一句がすべてバカバカしいのです。

話は少し変わりますが、10月14日にTBS系で放送された『日10☆演芸パレード 北野演芸館〜たけしが本気で選んだ芸人大集結SP!〜』で、オードリーは新作漫才を披露しました。その漫才は、彼らのブレイクのきっかけとなった「ズレ漫才」をさらに進化させたものでした。

若林がボケ、春日がツッコミを担っていた当時、春日のツッコミが普通じゃない……つまりヘタクソだというところに着眼し、春日のズレたツッコミを「ボケ」に変換してできたズレ漫才。先日披露した新作漫才では、春日が“漫才コント”を出来るようになったという進化が「ボケ」になっています。ビートたけしは、オードリーの漫才について「オードリーの漫才はうまいとは思わないよ。でも、俺はうまい奴より面白い奴が好きなんだ」とコメントしていました。これほどまでに的確に彼らの漫才の本質をついた賛辞はほかにないのではないでしょうか。なぜなら彼らは、「ヘタクソ」を最強の武器に変えて、唯一無二の「面白い」を生み出したコンビなのですから。

さらに斬新なのは、漫才中に春日が自ら「もうたくさんなんだよ!こんな生き恥さらすのは!」と絶叫するくだり。「こんな卑猥な色のベストを着せられて、こんなみっともない髪型させられて、胸を張れるだけ張らされて……」と嘆くのですが、じわじわと露出が増えだした2008年当時から、ピンクのベストを着て、七三のヘアースタイルで、胸を張って堂々とテレビに出続けていたわけですから、これは約4年という月日をかけた壮大な“フリ”ともいえるのです。

普通じゃない、普通の枠に収まることができない春日をフィーチャーして生まれるオードリーの笑い。
しかしブレイクから約4年の月日を経て、春日の“普通じゃなさ”がおなじみの光景になりつつあります。
そこで、前述のマイクの件のように絶妙なタイミングでツッコミを入れたり、“普通のオジサン”と言い切ってしまったり、逆に若林が“普通じゃなさ”を垣間見せたり……。この押し引きの巧妙さが、オードリーという芸人が前進し続ける理由なのではないでしょうか。

『おどおどオードリー』は、「驚くオードリー」「踊るオードリー」「おどけるオードリー」など、さまざまな表情のオードリーが見られる、というところからタイトルがつけられています。この番組ではイメージやキャラクターを飛び越えた圧倒的にくだらない企画で、視聴者やファンさえも置いてけぼりにしてしまうような暴走を見せ続けてほしいと思います。(青柳マリ子)