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これまでの放送

第192回 スペシャル 2012年9月8日放送

高倉健スペシャル 映画俳優・高倉健



一度きりを、生きる

高倉は、「同じことを何度も演じろといわれても、できない」と口にする。その言葉の裏には、演技者としての技量とは別次元の、真摯(しんし)な姿勢が秘められている。役を演じる時、高倉は何より「自分の心によぎる本当の気持ち」を大切にする。心をよぎった本物は、自然とにじみ出ると信じるからだ。だから高倉は、最小限のセリフで演技することを好む。長いセリフや大仰な仕草よりも、たった一言のセリフが雄弁になる、そう考えている。

ロケ地の空気、風景、匂い、スタッフの緊張感・・・。そうしたものから、本当の気持ちにつながる何かを見つけ出し、気持ちを盛り上げる。そして、最高に気持ちが高まった瞬間に「一度きりを、生きる」。そうやって高倉ならではの演技が生まれていく。

写真重要なシーンは特に、一度きりで撮りきることが多い
写真大ベテランとの芝居で、高倉は思わぬ涙を流した


生き方が、芝居に出る

高倉は、もともとなりたくて俳優になったわけではない。食い扶持を得るため、仕方なく俳優の道を選んだのが始まりだった。それから半世紀以上たった今も、高倉は「俳優という仕事がなんなのか」分からないという。
だが、これまでの経験の中で、教わってきたことがある。それは、俳優の「生き方」が芝居ににじみ出る、ということだ。ふだんどんな生活をしているか、どんな人とつきあっているか、何に感動し何に感謝をするか。そうした役者個人の生き方が、芝居に出るという。
高倉は「自分が好きになった役しか演じられない」と言う。それもまた、「生き方が芝居に出る」と真摯に考えて臨むからこそだ。
「俳優にとって大切なのは、造形と人生経験と本人の生き方。生き方が出るんでしょうね。テクニックではないですよね。」とは本人の弁。 高倉がこれまで多くの作品で演じてきたのは、まっすぐに生きる不器用な男。その男たちが醸し出してきた空気は、高倉が生きてきた道、そのものなのかもしれない。

写真生き方が芝居に出ると、高倉は信じている。
写真ふだん高倉が通う、床屋での様子


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

難しいね。あの、生業だとおもいますけどね。プロフェッショナルというのは、生業だと思いますね。以上です。

映画俳優 高倉健


プロフェッショナルのこだわり

体

高倉は、「俳優は肉体労働」だと語る。どんなに年をとっても、演じる以上は常に体を最高の状態に保っておかなければならない。そのために、細心の注意を払ってきた。例えば、朝食はナッツのたっぷり入ったシリアルにヨーグルトをかけたものときめている。毎日同じ物を食べることで体のリズムを整える。そして、体型を維持するため、大好きな甘い物も我慢し、夕食まで食べ物はほとんど口にしない。ウオーキングも欠かさず行い、ウエストも体重も何十年も変わらないという。さらに、朝起きるとマウスピースをかみ、脳に刺激を与える。
数年に一度しか映画に出演しない高倉にとって、日常のほとんどは人目に触れることのない日々だ。だが高倉は、どんなときであろうと映画に出演できるよう、体の管理を徹底してきた。

写真高倉は毎朝ナッツ入りのシリアルを食べる
写真毎日のウオーキングを欠かさない


心

高倉が体調管理以上に心を砕くのが、気持ちを常に繊細で、感じやすい状態に保っておくことだ。そのために高倉はふだんから、映画や小説、音楽のお気に入りはもちろん、大好きな刀剣や美術品に触れ、時に海外に旅に出て、心をさらす。そうして、自分の感性に磨きをかけてきた。
高倉は今回、特別に映画「あなたへ」の台本を見せてくれた。その最後には、お気に入りの写真や詩が貼られていた。会津八一から山本周五郎、山下達郎、そして無名の一般人の生き方まで、高倉の守備範囲は広い。「心を震えさせてくれる」と感じる物はなんでも、持ち歩くという。
長い映画の撮影期間には、半世紀以上のキャリアを持つ高倉であっても、気持ちをコントロール出来ない時がある。そんなとき、こうしたものに高倉はすがる。台本だけでなく自宅の洗面所にも、こうしたものを貼り、気持ちを盛り上げているという。「俳優とはそれほど頼りないもの」と、高倉は語る。

写真台本に貼ってあった会津八一の詩
写真お気に入りの本「男としての人生」には、ところどころ赤線が