日銀の独立を侵すのは政治の行き過ぎだ
自民党が日銀法の改正も視野に入れ、大胆な金融緩和を促す衆院選の政権公約をまとめる。安倍晋三総裁は建設国債の全額引き受けや無制限の金融緩和などを求める考えも示した。
安倍氏の発言は一線を越えているといわざるを得ない。政治が日銀の独立性を脅かし、財政赤字の尻ぬぐいまで強要するようなことがあってはならない。
日本経済を再生するには、デフレからの脱却と円高の是正が欠かせない。その具体策を各政党が衆院選で競うのはいい。日銀の金融政策が重要な手段のひとつで、緩和効果を最大限に引き出す工夫が問われるのも確かである。
ただ「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」という安倍氏の発言は問題が大きい。日銀が政府から国債を直接引き受けることを、財政法は禁じている。
安倍氏は2~3%の物価安定目標を設け、その達成を見通せるようになるまでは無制限に金融緩和を続けるべきだとも語る。日銀に委ねるべき手法にまで注文をつけるのがいいとは思えない。
一連の発言を受けて追加緩和への期待が広がり、市場では円安・株高が続く。停滞感を強める日本経済にとって、好ましいことだと歓迎する向きもあるだろう。
しかし政府が発行した国債を日銀が直接引き受ければ、財政規律を保ちにくくなる。政府が法改正を通じて日銀に強く介入できるようになれば、恣意的な金融政策を許す恐れもある。
政府の財政政策と日銀の金融政策がともに市場の信認を失い、日本の国債や通貨の価値が大きく下がるという副作用の方が怖い。いったん失った信認を回復するのが難しいことは、債務危機に陥ったギリシャなどが証明している。
金融緩和の圧力をかける空気はどの政党にもみられる。「中央銀行の独立性をぜひ尊重してほしい」。日銀の白川方明総裁の言葉にも耳を傾けるべきだろう。
デフレの克服と円高の是正は政府・日銀の共同作業だ。日銀の金融緩和で景気を下支えしているうちに、成長力を高める政策を打ち出すのが政府の役割である。
その責任を全うしてもらいたい。各政党が自由貿易や法人減税、規制緩和などの成長戦略をおろそかにしたままで、選挙戦に臨むのでは国民の理解を得られまい。