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インタビュー

cero 『My Lost City』


彼らの音楽を聴けば、何とも言えない幸福感に満たされる。聴けば聴くほど奥深く、でも小難しくなく素直に〈イイね!〉と言える楽曲を揃えた、2012年のポップス!

 

 

僕らはポップスを作っている

断言しよう。いまもっとも現代的で粋なポップ・ミュージックを聴かせる若手バンドは、間違いなくこのceroだと。

例えば、アレクサンドル・ボロディン作の歌曲〈ダッタン人の踊り〉をカヴァーしたアーサー・ライマン“Stranger In Para-dise”をライヴで取り上げてみたり、クレジットこそされていないが、オリジナルの曲にも〈あのアーティストのあの曲が……〉といった引用がそこかしこに隠されているので、聴きながらそれを探し当てるのもまた楽しい。だが、2004年に東京の郊外で結成されたこのバンドの素晴らしさは、そうしたマニア度の高さにあるのではない。そういった知識やセンスを、ヒップホップ/クラブ・ミュージックの持つモダンなグルーヴ感や洒脱な言葉を交えて軽やかなポップスに仕立てることができる、そんな開かれた感覚こそが彼らの心臓部。ceroのライヴを観て思わず踊ったり声を上げたりしてしまった、なんて人もいるのではないだろうか。

「実は去年の震災後、計画停電があったことで“大停電の夜に”(初作『WORLD RECORD』収録)とかが一人歩きして聴かれるようになっちゃったのはちょっと不思議な感じでした。デカダンなものを作りたかったわけじゃないのに……って。やっぱり僕らはポップスを作っているわけですからね。実際はシビアだったり不気味だったりする曲も、ユーモアを感じて楽しく聴いてもらいたいんです」(高城晶平、ヴォーカル/ベース/ギター)。

「去年震災があって本当に多くの街が津波で沈んでしまったけど、新しいアルバムに入っている“大洪水時代”はその前から偶然出来ていた曲。普通にポップスを作る感覚で出来た曲なんですよね」(荒内佑、キーボード/ベース)。

確かに深読みされやすいバンドかもしれない。ニュー・アルバムのタイトルはスコット・フィッツジェラルドの短編集と同じ『My Lost City』=失われたわが街。震災後の空気を意識した示唆的な狙いを感じ取る人も多いだろうし、昔から〈雨〉をテーマにした曲が多いこともあって〈闇を抱えたバンド〉だと指摘されることも少なくないだろう。だが、今回取材に応じてくれた3人は、昨年の『WORLD RECORD』の時はすでに今回の収録曲中の7割は完成していた……と説明したうえで、そうした周囲の深読みや思惑を緩く否定する。素顔の彼らはクラブにも足を運ぶしレコードを買うのも大好き、取材中もアコギを抱えて弾いてみたりするような根っからの音楽好きの若者だ。

「僕らは誰か一人が中心になって曲を作るようなバンドじゃない。サポートのMC.sirafu(片想い、ザ・なつやすみバンド他)やあだちくん(あだち麗三郎。あだち麗三郎クワルテット、片想い他)と意見を出し合って曲をアレンジしていく。それと今回はライヴのPAをやってくれている方の影響もあって、クラブ・ミュージックを以前より聴くようになったことが音作りに反映されているような気がしますね。その方に教えてもらってハマったジェネラル・ストライクとか。あと、ZEのコンピ『Mutant Disco』っぽい感じもサウンドに出てるかもしれない」(高城)。

「僕自身あまりロックを聴かないけど、個人的には音作りのほうに興味があるからそうやってみんなでいろんな音楽を共有して雑多にしていく作業がおもしろかったりしますね」(橋本翼、ギター/クラリネット)。

 

音楽そのものの喜びを糧にしている

彼らの曲には、ジャングリーにギターが鳴っているところにメロディーが何となく乗っかっているようなものが基本的にない。リフとリフが絡み合ったり、印象的なフレーズがループするリズムと交錯して生まれたグルーヴに、言葉や旋律が軽やかに躍るような、立体的な構造の曲が特徴だ。

「それは僕がギターからベースに持ち替えたというのが大きいかもしれない。それによってサッカーで言えば攻撃陣が増えて、フォーメーションが変わったので、リフやフレーズ中心の曲が多くなったのかな。自分たちの曲のなかからフレーズを抜き出すこともあります。“cloud nine”なんかは前作に入ってる“(I found it)Back Beard”から引用してますからね」(高城)。

「僕自身は鍵盤で曲を作ることが増えたんですけど、確かに先にリフが出来てくることが多い。“マウンテン・マウンテン”とかもそうですけど、DJがひとつのネタをループさせていくようなやり方で作ることが多いですね。ひとつのリフだけで曲が出来るってことは、それだけで曲に強度が出るし、他の要素も入ってきやすくなる」(荒内)。

「どちらかと言えば音色をコラージュしていくような感覚で曲を仕上げているところがあります。ただ今回はファーストに比べてライヴを通して仕上げていった曲が多いので、バンドの瑞々しさが前面に出ていると思います」(橋本)。

トーキング・ヘッズ、セニョール・ココナッツ、大滝詠一……新作に隠されている音楽的な〈栄養素〉は挙げればキリないほどだと言うが、それらを彼らはひとつひとつ楽しみながら整理し、モダンなポップスとして仕上げていく。そうした作業そのものにも彼らは作り手としての醍醐味を見い出しているのだろう。

「僕たちは怒りやコンプレックスを原動力にするというよりは、音楽そのものの喜びを糧に活動している節が強いんです。でも、憂いはあるかもしれない。それをユーモア混じりに伝えたいんだと思います」(高城)。

★ceroが所属するレーベル=KAKUBARHYTHMのディスクガイド〈KAKUBARHYTHM 10周年!〉はこちら

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月24日 17:59

更新: 2012年10月24日 17:59

ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野