日本では、医師の処方箋がいらない一般用医薬品であってもインターネットで買うことができない。アメリカやヨーロッパなど多くの国で普通にできることが、なぜか日本では規制されてきた。その背景には既得権を手放さない政官業「鉄のトライアングル」の存在と、官僚主導で規制を作ることができるカラクリがあった。政策工房社長の原英史氏が解説する。
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まず、禁止の根拠となる規定を見ておきたい。医薬品のネット販売が禁止されたのは比較的最近で、2009年のことだ。2006年に薬事法の大幅改正がなされ、それに伴って法律の細則にあたる薬事法施行規則(厚生労働省令)も改正された。
条文だけ見ても分かりづらいが、医薬品のリスクの度合い(第一~三類)に応じた規制になっていて、簡単に整理すればこういうことだ。
●第一類医薬品(H2ブロッカー含有の胃薬や一部の風邪薬など)/薬剤師が「対面」で販売しなければならない。
●第二類医薬品(主な風邪薬など)/薬剤師または登録販売者が「対面」で販売しなければならない(注:登録販売者とは、2006年改正薬事法で設けられた、薬剤師より簡単に取れる資格)。
●第三類医薬品(主な整腸薬など)/ネットを含め、通信販売(法令上の言葉では「郵便等販売」)が可能。
第一類と第二類については、「対面」で販売しなければならない。つまり、ネット販売は禁止という意味だ。
規制の論拠として厚生労働省が指摘するのは、安全性の問題だ。つまり、薬局での販売ならば、薬剤師がいて症状を聞き、顔色を見ながら適切な薬を選び、副作用などの注意事項もきちんと伝えることができる。これに対しネット販売の場合は「対面」していないために、なにかと危険性が伴う。だからリスクの低い第三類を除いて禁止というわけだ。
この論拠は、ちょっと考えるだけでもおかしいと分かる。例えば、「対面」ならば顔色を見ることができるというが、それなら風邪で寝込んだ人のために家族が風邪薬を買いにいく場合はどうなるのか。薬局に薬剤師がいても、代わりに来た家族の顔色しか分からない。直接本人から症状を聞くこともできない。
副作用などの情報提供についてもよくわからない。薬局で買う場合でも、店頭で慌てて聞き損なうことはよくある。それならばむしろ、ネットできちんと書いてあるほうがより確実ではないのか。世の中には足が悪いお年寄りなど薬局に出向くのが大変な人も大勢いる。そういう人たちにとって、ネット販売禁止は逆に安全性や健康を損なうことになりかねない。
※SAPIO2012年11月号