無事閉会したロンドン五輪。しかし、その裏側では、ドロドロとした選手同士の暗闘があった。とりわけ、感動的な涙で幕を下ろした女子卓球の2大エース、福原愛と石川佳純の間には、誰も埋めることのできない「冷戦関係」が渦巻いていたのだ─。

福原が生中継で石川をスルー

 女子卓球団体で、史上初の銀メダルを獲得した日本代表チーム。格上と見られていたシンガポール代表チームとの準決勝では、3─0で快勝。勝利の瞬間、ペアを組んでいた平野早矢香(27)と石川佳純(19)が抱き合って、涙を流し喜びを表現するシーンが感動を誘った。

 だが、その一方でコートの外で試合を見届けていた福原愛(23)は、目から涙をあふれさせそのまま直立したまま。そこに駆け寄ってきたのが、年長の平野だった。左右の腕で石川と福原の頭を抱えて抱き締めると、3人は人目もはばからず号泣したのだった。

「あの瞬間こそが、まさに代表チームの関係性を象徴するシーンでした」

 と言うのは、ロンドン五輪を取材していたスポーツ番組スタッフである。いったいどういうことか─。

「実力的には、福原と石川に一歩劣る平野こそ、チームをまとめるクッション役だった。何しろ、福原と石川は、合同インタビューでは目も合わせない“犬猿の仲”。シンガポール戦直前のミーティングも平野が前日の深夜に、わざわざ福原の部屋を訪れて話し合い、翌日の朝に、今度は石川と戦術の確認をするほどだった。表彰式などでは、3人の仲のよさそうなスリーショットもありましたが、あくまで対外的なポーズにすぎません」(前出・スタッフ)

 現在、世界ランキング6位の石川と7位の福原。そのライバル心たるや、なみなみならぬものがあるのは容易に想像できる。しかし、ロンドン五輪という晴れの舞台でもその「冷戦関係」が氷解することはなかったのだ。

 テレビ局スポーツ担当者が明かす。

「とにかく部屋割り一つ取っても、年長の平野が気を遣って石川との相部屋を選んだ。これまでの慣例では、先輩の平野が1人部屋で、福原と石川が相部屋なのが一般的です。女子卓球の村上恭和監督も『仲よし3人組で強くなれるわけがない。対抗意識があったからこそ成長した』と述べましたが、福原と石川の関係を知っているからこその本音だと思いますね」

 実際、五輪の表彰台を降りてしまえば、2人の冷戦関係はかつてのまま。銀メダル獲得後の8月8日の「スーパーニュース」(フジテレビ系)でも、福原は石川の活躍を無視する一幕があった。

「ロンドンからの生中継で、3人で登場した代表チームに対し、長年、福原を取材してきたディレクターが、『平野選手は先輩でありライバルであってケンカもしたかと思いますが』と話を向けると、福原は『もうホントに早矢香ちゃんと一緒にメダルが獲れてホントによかったと思います』と、隣に座っている石川を無視するように笑顔で語ったのです」(番組関係者)

 その後一瞬、スタジオは静まり返り、隣に座っていた石川の表情が硬直。石川は試合中に、虚空を見つめながら思い詰めて考え込むしぐさを見せるが、まさに真剣勝負の時のような表情で、ウンウンうなずきながら苦笑いしたものの、不機嫌そうな様子は一目瞭然。

「ディレクターは慌てて『もちろん石川さんも一緒だからということも‥‥』とフォローを入れましたが、福原は『エヘヘ』と笑うのみで、スタジオの雰囲気は凍りついたまま。進行役の舞の海と女子アナの椿原慶子もバツが悪そうに、『ハハハハ‥‥』と笑って精いっぱいごまかしていましたが、終始気まずい状況で後味の悪いインタビューになりました」(前出・番組関係者)

10年のシングル対決で大金星

 それにしても、なぜ女子卓球界をリードする2人が、ここまで関係をこじらせてしまったのか。

 2人を長年ウオッチしてきたスポーツライターが明かす。

「もともと石川は、福原に憧れて卓球を始めたほどで、当初、2人の関係は良好でした。09年ぐらいまでは、合宿の時には所属先が同じこともあり、お互いの部屋を行き来したりしながら、福原がサーブなどの技術をアドバイスしたりしていた。またオフの時も2人で買い物に出かけるなど、周囲からも『まるで姉妹みたいね』と言われるほど、仲むつまじかったんです」

 実力的にも石川は福原の後塵を拝してきたが、10年1月の全日本卓球選手権の女子シングルス準決勝戦で、石川が福原を4対1で破る金星をあげたのだ。そこから、2人の関係は「姉妹」から「宿敵」に変貌していった。

「最初は石川が過剰に福原のことを意識するようになって、試合後も口をきかなくなった。その後はプライベートの関係もとだえ、今ではまったく視線を合わせようとすらしません」(前出・スポーツライター)

 スポーツ紙五輪担当記者によれば、

「実力的には、すでに石川が福原を逆転しているという声は大半。23歳にしてキャリア20年の愛ちゃんですが、実際には家庭環境を含め紆余曲折を経て、ようやく現在のポジションをキープしている。一方の石川は福原の活躍もあって、女子卓球が脚光を浴びたあと、整備されてきた環境の中で英才教育を受け、グングンと伸びてきた。しかも見た目と違い、性格も攻撃的で、おっとりした福原とは対照的。そうした性格的なタイプの違いが、ここにきてはっきり出てきて、『笑顔の冷戦』につながっているんです」

 今後の2人について、女子卓球を長年取材し、今回のロンドン五輪での活躍も現地で取材してきたスポーツライターの折山淑美氏はこう期待を込める。

「実力的には、抜きつ抜かれつで均衡しています。福原も石川も、お互いの存在がなかったら、ここまでの結果を出せなかったはずです。もともと、石川は福原を目標に成長してきた。福原も、後輩の石川が先に全日本選手権で優勝したことに悔し涙を流し、その石川に勝つことは大きなモチベーションになってきた。王者・中国の壁はなおも高く立ちはだかるとは思いますが、メダルを自信にさらに切磋琢磨してお互いが高め合えば、リオ五輪でもさらなる活躍が見込めると思います」

 五輪での一時休戦もつかの間、2人のライバル物語は、ますますエスカレートするに違いない。