試合前のセレモニーで、時に選手が涙を流しながら歌う国歌。その歌詞を和訳で紹介し、成り立ちまで探求した『国のうた』『国旗・国歌の世界地図』(ともに文藝春秋刊)を読むと、各国のお国事情まで透けて見えておもしろい。
〈イピランガの静かな岸辺に聞こえる勇ましき民の雄叫び。おりしも祖国の空に輝く自由の太陽よ。たくましき腕で勝ち取りし平等の契り。おお自由よ、命を賭して守らん。おお、愛し 崇める祖国に栄えあれ! 栄えあれ!〉
イピランガとは、ブラジルを建国したドン・ペドロ1世が「独立か、それとも死か」と叫んだ丘の地名。今大会、最もスタジアムを揺らすだろう開催国ブラジルの国歌は、イントロだけで15小節もあり、その後は早口で歌われるのが印象的だ。
続いて、日本第1戦の相手コートジボワールの国歌。
〈愛すべきコートジボワール、あなたの息子たち。あなたの偉大さをつくりあげる誇り高き職人たちは、あなたの栄光のために集まって、喜びのうちに国を建てるだろう〉
タイトルは「アビジャンの歌」。アビジャンとは、1983年まで首都だった同国最大の都市だ。
第2戦はギリシャ。独立戦争の最中に作詞されているだけあって勇ましい。
〈研ぎ澄まされた剣を手に 鋭き眼差しで、大胆不敵に大地を見渡す。汝、ギリシャの民よ〉
実はギリシャの国歌は全158節あり、世界一長い。ここに引用したのは、公式に歌われることの多い2節までの冒頭部分だ。
予選第3戦の相手のコロンビアの国歌は、なぜかイタリア人の作曲。
〈アメリカ大陸に「独立を」との叫びがひびき渡り、コロンブスの大地に勇気ある者たちの血が流れる〉
「コロンブス」とは新大陸を“発見”した有名な探検家。ちなみに、コロンビアという国名はコロンブスの女性形だ。
※週刊ポスト2014年6月20日号