こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

インタビュー

Ken Yokoyama 『Best Wishes』



Ken Yokoyama



[ interview ]

ロック・ミュージシャン、Ken Yokoyama。 2012年で43歳。その年齢と経験とスキルを余すところなく発揮した新作『Best Wishes』は、これまでのどのアルバムよりも時代性の強いものだ。テーマはズバリ〈震災後の自分〉。一人の怒れるパンクスが、いかにして〈UNITE〉と〈LOVE〉を照れなく歌えるようになったのか? 最高にヘヴィーでタイト、メロディックなロックンロールに乗せて、確信を持って発射される言葉の深みはどこからくるのか? 通算5作目、その長いキャリアのターニング・ポイントとなり得る最重要作の登場だ。



あれだけのことが起こったら、言わざるを得なかった



――前作から2年3か月の間に、日本では大変なことが起きてしまった。サウンド的にはどこを切ってもKen Yokoyamaらしい最高のロック・アルバムだと思いますけど、歌詞の面でははっきりとそれをテーマにしたものが多いですよね。

「制作に取りかかる時には、〈震災後の気持ちを歌うぞ〉というつもりはまったくなかったんですけど。結局すべてが震災後の自分を歌ったアルバムになりましたね」

――言葉の重みが、以前の作品とは相当違うと思います。言葉とサウンドは、切り離して考えているんですか?

「今回は特殊なんです。いつもは曲だけ作って、まずは宇宙語で歌って、それに歌詞をはめ込む形を取っていたんですね。でも今回そういう曲作りをしようと思ったらできなくて。曲のアイデアは浮かぶけど、それをどうしていいかわからない。で、ちょっと考えを変えて〈タイトルから揃えてみよう〉と。タイトルが欲しがっている曲を作るのと、曲だけ先に作るのとでは、納得具合が違うんだろうなという気がしたんですね」

――ああ、なるほど。

「曲先行で作ると、〈これでいいのかな?〉とか〈これは前にやったかな?〉とか、ミュージシャン独特の変な妄想に囚われたりもするんですけど、いままで歌ってこなかったテーマをタイトルとしてポンと置いて、それを元に曲を作っていけば、音楽性に振り回されることがないという気がしたんですね。今回はそういうふうに曲を作ったんで、いままでにない曲調にもトライできましたし、歌詞の持つ世界観を音にできたので、そこでの整合性はあると思いますね」

――ちなみに、アルバムのために最初に手をつけたのは、どの曲ですか。

「2曲目に入ってる“You And I, Against The World”です。ちょっと具体的な話をすると、このコード進行とメロディーはずっと持ってたんですね。でも、それを元に曲を作っていく気になれなかったんですよ。それがある日突然、“You And I, Against The World”という言葉が頭のなかに浮かんで、〈この曲、使えるじゃん〉ってなった。タイトルに引っ張っていってもらえば、曲の細かいことなんかどうでもよくなったんですよ。それよりも、〈自分の歌詞とタイトルを伝えるための音楽〉という感じでしたね。そこらへんは、聴く人からしたらすごくちっちゃな話かもしれないけど、作る僕としてはものすごく劇的な変化なんです」

――タイトルでいうと、1曲目に入っている“We Are Fuckin’One”は、去年の震災直後に始められたチャリティー活動のなかですでに使われていた言葉ですね。

「そうです。東北フリー・ツアーのタイトルですね。震災直後に、人として物資の支援をするとか、そういったこととは別に〈音楽家として何をすべきか?〉というチャンネルも自分のなかにはあって、思い付いたのがフリー・ツアーだったんですね。実現したのは4~5か月も経ったあとでしたけど、音楽のあり方、必要とされ方に沿った活動ができたかなという自負も多少あるので。その時に浮かんだのが〈We Are Fuckin’One〉だったんです」

――この曲は、1行目でいちばん大事なことを言い切っている。〈仲間が困ってたら 悲劇に見舞われたら助ける 当然だろ?〉と。

「まさにこんなテンションでしたね、ツアーをやってる最中は。でも〈We Are Fuckin’One〉という言葉も、震災以前だったらチャンチャラおかしいぐらいに思ってたんですよ。パンク=拒絶性だと思っていたので、〈WE ARE ONE〉だとか〈UNITE〉だとか、そんなのまやかしだよってずっと思って生きてきた。でもあれだけのことが起こったら、言わざるを得なかったですね。逆に、起こったから言う必要があると思いましたし」

――そこで価値観の転換というか、それまでの自分を否定することに対する葛藤はありましたか?

「いや、全然。もともと自分のなかにあったものだとは思うんですよ。僕も、生まれてすぐに拒絶性を身に付けたわけではないので(笑)」

――そりゃそうですよね(笑)。

「だから人として〈UNITE〉の大事さとか、その言葉が威力を発揮する場所であったり、事象であったり、そういうことをちゃんとわかってたんですね。ただ震災前は、そんなことを言う必要ないぐらい平和ボケしてたと思うんです。平和ボケといっても戦争とは関係なく、やっぱり日本はすごくボケていて、なんだかみんなゆるりと生きていられたと思うんですね。そこであれだけのことが起こって……ものすごい国難だと思うんですよ、いまも。そんななかで、自分は発信者の立場だと思うのなら、おのずと言うことも変わってくるというか、変わらせられましたね」

――そのへんのテーマって、“Ricky Punks III”に明確に描かれてますよね。物語風に仕上げてはありますけど、もろにKenさん自身が出ているというか。

「僕の周りに、人道的支援をするパンクスやハードコアの連中がいっぱいいたんですね。僕らにとってはあたりまえの風景なんですけど、聴く人はあんまりご存知ないんじゃないか?と。だったら僕が目にした風景を、ちゃんと歌にして残そうと思ったのがこの曲だったんですけど、熱が入って、しまいには自分のことを書いていたという感じですね。でも自分で言うのも変だけど、よく書けたなと思います」

――〈UNITEなんて、いちばん嫌いなことじゃなかったか?〉とか、〈パンクから教わったこだわりは大事だが もっと大事なことがあるんじゃないか〉とか。書くのに相当勇気のいるフレーズだと思うんですよ。

「はい。でも作ってる時は自分のことを書いてるつもりはなかったので、そんなに勇気は要らなかったんですよ(笑)。書き終わって、バンド内でも議論があって。この〈Rickyって誰なんだ?〉と。具体的な人がいるのか?と。だから〈別にないよ。なんとなく、オレたちの周りってこういう感じでしょ〉とか言ってたんだけど、よくよく読んでみると、これは自分以外にはあり得ないなと」


カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年11月21日 18:01

更新: 2012年11月21日 18:01

インタヴュー・文/宮本英夫