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ceroのcontemporary exotica records online(第5回)

連載
皿えもん
公開
2012/10/19   13:30
更新
2012/10/19   13:30
テキスト
文/荒内佑(cero)


アーティストが各テーマに沿ったお皿(CD)を紹介する連載! ceroのメンバーが考える〈エキゾ〉なディスクを紹介します! 第5回は荒内佑(キーボード/ベース)のエキゾ盤!



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FLORA PURIM 『ENCOUNTER』 Milestone



寒くなってまいりました、秋です。秋といえばブラジル音楽――夏じゃなくて?
そう、なぜかって、ジメジメした夏から湿度が下がり、南国の湿度へ接近していく日本の秋こそ、カラッとした気候でブラジルものは音が良く〈鳴って〉くれる。
そういえば楽器もオーディオもヴォーカリストの喉の調子も、温度より湿度が重視されるよな、という持論を持っております、ceroの荒内佑です。
今回はブラジリアン・ジャズ/フュージョンの歌姫、フローラ・プリムの『Encounter』を紹介致します。

それで、この盤のクレジットをふと見てみると、〈Recording Studios, New York City, Los Angels〉となっています(笑)。
ずっとブラジル録音だと思っていたので衝撃と動揺が……そういえばフローラ・プリムは60年代にブラジルから渡米していたのでした。

以下、ジャズ小話(興味ない方は次の段落へ!)。
彼女の夫はブラジリアン・パーカッションの大御所、アイアート・モレイラ。60年代~70年代のジャズ・シーンはアメリカとブラジルの交流が深く、この『Encounter』にもマイルス・グループのジャズ・ジャイアントであるロン・カーター(ベース)や、コルトレーン・クァルテットのマッコイ・タイナー(ピアノ)なども参加。この時代は2か国の蜜月期であり、まさに〈Encounter=邂逅〉が行われていたわけです。ブラジル方面からは、フローラ・プリム作品には欠かせないエルメート・パスコアールがマイルスの作品に参加していたり、フローラ本人はチック・コリアの楽曲で歌っていました。

この『Encounter』を学生時代にどうしても聴きたくて、息を切らしながらレコ屋を回ったけれど、探せど探せど見つからない。
涙し嗚咽を漏らしながらレコード棚を漁れども見つからない。
というのも、MPBコーナーを探していたから(MPBとは〈Musica Popular Brasileira〉の略で、その名の通りブラジルのポップス、現地のショーロやボサノヴァが、ビートルズなどの欧米のロック/ポップスの影響を受けて出来たジャンル。カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメント、エリス・レジーナなどが代表的)。
そして、はたとジャズ/フュージョン(ブラジル)コーナーを探すと……あった! 結構あっけなくあった! まさに〈Encounter〉!

どうして躍起になってこのアルバムを探していたかというと、2曲目の“Latinas”を、作曲者のエルメート・パスコアールが来日時に弾き語っている映像を観て心を打ち抜かれたから。

あまりにロマンティックで愛に溢れ、観客と奇跡のような合唱をインプロヴァイズする彼の姿にひどく感銘を受け、その曲を盤でどうしても聴きたかったのです!
さっそくレジで会計を済ませて家に帰り、レコードをセットして針を落とす。
前の持ち主にだいぶ聴かれたであろう盤はノイズが多かった。

夕方、ベッドに横になって聴いていると、学生の自分にとっては〈こんな種類の音楽があるんだ〉という驚きと、〈こんな音楽が鳴る楽園が本当にあるんじゃないだろうか〉という感動に襲われ、どこか遠くへ連れて行かれてしまいそうな、不思議な気持ちがしたものです。
 “Latinas”はフローラ・プリムとパスコアールのデュエット曲で、妖しさと優しさが混じり合ったような歌と、波や涙の温かさが感じられる演奏――こんな音楽が約30年後、日本人に合唱されるなんて誰が考えただろう。いや、きっと良い音楽というのは誰のものでもないんだろうな……などと考えていた学生時代。
『Encounter』に出会わなければ、きっとceroの音楽も随分違っていただろうと思います。

10月24日にceroのセカンド・アルバム『My Lost City』がリリースされます。
ぼくにとっての『Encounter』がそうであるように、聴く人にとって特別なものになってくれたら幸いであります!



PROFILE/cero



髙城晶平(ヴォーカル/ベース/ギター)、橋本翼(ギター/クラリネット)、荒内佑(キーボード/ベース)から成る3人組。2004年に結成され、都内を中心にライヴ活動を行うなか、2008年のコンピ『細野晴臣 STRANGE SONG BOOK -Tribute to Haruomi Hosono 2-』収録の鈴木慶一“東京シャイネスボーイ”へ演奏で参加したほか、同年の『にほんのうた 第二集』にて“青い眼の人形”のカヴァーを提供。2011年にファースト・アルバム『WORLD RECORD』をリリース。そしてついに、10月24日にニュー・アルバム『My Lost City』(KAKUBARHYTHM)をリリース! 予約はコチラからどうぞ。そのほか、〈KAKUBARHYTHM 10years Anniversary Special〉などへの出演が予定されているほか、11月には各地のタワレコにてニュー・アルバムのリリース記念ミニ・ライヴ&サイン会が行われます。詳しくはコチラへ!!