言葉なき対話 第1回 『ポートレイト|Tatsuki vs. Arbus』 |

RPSのネットワークからこの方々に、と思う写真関係の世界に身を置く方々による進行企画。今回はVICEのTomo Kosugaさんさんによる進行でゲスト写真家に田附勝さんを招いて行います。参加する方は「これ撮ってます」というポートレイト写真があれば一枚持参でご参加下さい。とくに規定はありません。ありのまま、見て欲しいままの一枚を持参でお願いします。本題を終えた時点で田附さん、小菅さんとともにお持ちのポートレイトについて、みなであれこれ意見を交換する時間があります。

言葉なき対話

第1回 『ポートレイト | Tatsuki vs. Arbus』
ゲスト写真家:田附 勝 進行:Tomo Kosuga(VICE)

日時:2012年11月17日(土曜日、午後4時開場受付、午後4時30分〜午後7時まで、その後に残れる方は懇親会にご参加下さい)
場所:THE REMINDERS PHOTOGRAPHY STRONGHOLD
墨田区東向島2-38-5
費用:500円(メンバー)1,500円(メンバー以外)※いずれも1ドリンク付き、学生証の提示の出来る方は参加費が無料になります
定員:35名  定員がありますので、参加申し込みの上ご参加願います。参加申し込みフォームをご利用下さい。
アクセス:http://reminders-project.org/?page_id=362&lang=jp
参加する方は「これ撮ってます」というポートレイト写真があれば一枚持参でご参加下さい。とくに規定はありません。ありのまま、見て欲しいままの一枚を持参でお願いします。

ゲスト写真家:田附 勝
進行・文:Tomo Kosuga(VICE)

人はポートレイトに惹きつけられる。たとえば、雪だるま型に重なったアイスクリームをほおばる恋人の、とろけるようにキュートな笑顔。たとえば、『セックス・アンド・ザ・シティ』を観ながら「私だって!」とエクササイズを始める母親の姿——。とにかく私たちが惹かれる写真には、たいてい誰かが映り込んでいる。それが誰であろうと、関係ない。加えてその顔、その表情が映り込めば、さらに刮目してしまう。人の思考が表情から100%読みとれれば話は早いが、そうは表情筋が卸さない。人の顔では、実に30種以上の筋肉がひしめくのだ。解読は困難である。もし表情で思考が伝わるようなら、ムラムラしている日なんて誰とも会えない。とにかくポートレイトは面白い。

©Masaru Tatsuki “Nakaibayashi Yoji, a Harpoon Fisherman”

上の写真。1人の男が後光を背負いながら、意味深な決めポーズ。しかし、複雑な表情だ。写真家がこのカットを選んだ理由も気になる。写真家の名は、田附勝。サッパリしているようで脂っこい、共感できそうで近寄りがたい。そんな写真を撮る男だ。昔でこそ「写真は魂を抜き取る」と怖がられたものだが、それに近いものがある。愛と憎しみ、共感と裏切り。田附勝の写真は、両極端の世界を行き来する。


©Masaru Tatsuki “Kishin Shinoyama”

田附勝は、仕事で写すポートレイトだって面白い。被写体の人物によっては、怪訝そうな表情と態度を表す。しかも田附勝と被写体の距離感はものすごく近そうだ。そこに特徴的な、真っ正面からのキツいストロボ光が当たる。写真の善し悪しを超えて、眼が串刺しにされる瞬間だ。時には、直視がつらいほどエネルギッシュなケースも。上の1枚がそうだ。こんな場合でも、やはり〝見ちゃいけないモノ〟を覗き見た気がして、背徳感や嫌悪感を感じつつも見ずには入られない。

その対戦相手として今回ぶつけるのが、ダイアン・アーバスだ。悲しみに満ちた人生のわりには、男顔負けのぶっ飛んだ被写体を追いかけた強靱な女。ポートレイトのタブーを切り崩した、写真界のビーナス。


©Diane Arbus “A Womn wit Pearl Necklace and Earrings Hat”

写真を撮るというプロセス自体に、我々が普段はほとんど経験しない、或る種の厳しさや正確さが要求されます。つまり我々はお互いに日常生活ではそうした緊張関係を持っていないということです。カメラという機械が入り込まなければ、もっと和やかでいられるのに。カメラはいささか冷たく厳しいものなのです。
『ダイアン・アーバス、その言葉』より抜粋(筑摩書房『ダイアン・アーバス作品集』)

アーバスのこの言葉は現代にも通じる。カメラはiPhoneにとって代わったが。どこかに出かければ、その晩にはFacebookに写真が載っている時代だ。自分の破廉恥な姿が第三者の手でネット公開、そんな可能性だってある。まったくクレイジーで考えたくないが、それがスタンダードとなりつつある。そんな時代に、写真家はポートレイトとどう立ち向かうのだろう?


©Diane Arbus “Mae West in Chair at Home”

私たちと写真。写真家と被写体。写真とそれを観る者。そして、田附勝とダイアン・アーバス。それぞれのあいだにあるのは、言葉なき対話。それを敢えて言葉で紡ごうというのが、この主旨だ。実に矛盾している。飲み潰れた翌日になぜゲリが止まらないのかを考えるほどに矛盾している。しかし写真なんてものが、そもそも矛盾しているのだから。そしてなにより、私たち人間がそもそも矛盾した存在なのだから。

さあ、アーバスを拠りどころにし、写真家・田附勝の言葉に耳を傾けてみよう。

田附勝(たつき・まさる)
写真家。1974年、富山県生まれ。1998年、フリーランスとして活動開始。2007年、写真集『DECOTORA』(リトルモア)を刊行。2011年、写真集『東北』(リトルモア)で、第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。今年末、自主出版による写真集『kuragari』を刊行予定。

Tomo Kosuga
VICE Magazine Japan編集部。これまで手がけたものは、写真集『Fashion Cats』をフォトグラファーとして、写真集『Terry Richardson vs Jackass』『Everyday is like Sunday』を編集として、写真展『Terry Richardson vs Jackass』『Bob Richardson』『VICE PHOTO SHOW 2010: Nippon Eye』をキュレーション。