住まいの雑学
16
嘉屋 恭子
2014年7月25日 (金)

多くの人が希望する自宅での看取り。どのように備えればいいの?

臨終につきそう「看取り」。あなたは自宅で看取られたい?それとも?(写真:barabasa / 123RF)
写真:barabasa / 123RF

「最期のときを自宅で迎えたい」。多くの日本人はこう望んでいるという。だが、現実には病院で臨終を迎えることがほとんど。では、どのようにすれば自宅での看取りは可能になるのか。現役の医師に聞いてみた。

自宅で亡くなる人は1割強。ほとんどの人が病院で亡くなる

今回、自宅での「看取り」について聞いたのは、終末期ケアや在宅医療などに取り組む野口悦正医師。そもそも、日本で自宅にて看取られる人は、どのくらいいるのだろうか。

「今現在、自宅でお亡くなりになる人は1割程度です。8割近い人が医療施設、ほかに特別養護老人ホームなどの老健施設で看取られています(グラフ1)。ただ、この状況になったのは、そんなに昔のことではなく、30年〜40年ほど前です。それより前は自宅で亡くなるのが一般的でした」という。

一方で、厚生労働省の調査によると、自宅で最期を迎えたいという人は、7割超(グラフ2)。医療や介護の必要度合いにもよるが、多くの人が自宅で看取られたいと希望していながら、現実的には、医療機関になってしまうというのが現在の状況のようだ。

多くの人が希望する自宅での看取り。どのように備えればいいの?

出典:厚生労働省在宅医療の資料(2009年)より

多くの人が希望する自宅での看取り。どのように備えればいいの?

出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」(2013年)より

「患者さん本人が自宅で最期を迎えたいと思っていても、実際に容態が急変すると、大半の人はパニックになってしまうもの。例えば呼吸で苦しがっている様子を見かねて家族が救急車を呼んでしまい、結果的に医療施設でお亡くなりになるというケースも多いんです」(野口医師)

もちろん、家族が自宅で看取れることもあるが、生半可な覚悟では難しいのが現実のよう。実は筆者はつい最近、飼い猫が危篤に陥り、その際は大変動転した。たかが猫一匹でこうなのだから、人間——しかも長年連れ添った家族の最期となれば、想像以上に動揺するのが人間だろう。ひと口に「自宅で看取る」といっても、簡単なことではなさそうだ。

在宅看取りには本人と家族、医師、看護師の連携が重要

では、自宅で看取られたい、自宅で看取りたい場合は、どのような準備が必要なのか。
「本人の意思と家族の希望を確認したうえで、患者さんが終末期であることを医師が診断する必要があります。在宅医療は家族だけのケアや介護は難しいので、在宅医療や往診を行う医師、訪問看護を行う看護師、さらに介護の側面も大きくなってきますから、ケアマネージャーなどの介護者と連携して備える必要があります」(野口医師)

また、医師からは現在の状態はもちろん、予測される身体の変化のようすの説明を受け、状況に応じた連携先についても整理しておく。さらには想定される最期の時期などを話してもらうとともに、死後の着替えや搬送方法、化粧や葬儀などの詳細についても、備えておくといい。こうしたモノや事態への備えとともに、必要なのが本人と家族が死を受け入れる「心の準備」だ。在宅看取りと決めたものの、家族が死を受け入れていないと、のちのち気持ちが整理できないこともあるという。

「在宅医療では、人生最期の段階になれば、医療ができることは減ってくるので、過剰な手当てをせずに見守るという考え方です。ただ、在宅だからといって、家族に見守られるなかではなく、朝起きたら亡くなっていたということもあります。できるだけ詳細に、いつ、どんなことが起こりえるのかを担当医師に聞き、備えておきましょう」(野口医師)

一方で、在宅での看取りで懸念する人が多いのが、「警察沙汰になったら困る」だという。
「自宅で死ぬと検死が必要になる、現場検証される、警察の聞き取りがある、というのを心配する人が多いんです。虐待や殺人を疑われても困るという人もいます。ですが、実際は病名が分かっていて、死因が特定できれば、検死になることはほとんどありません。警察もわざわざ事件にしたいわけではありませんから」(野口医師)という。また、一度は安置所に置かれても、医師が出向いて死亡診断書を書くことで、在宅での死亡となり遺体も自宅へ戻されるという。

健康なうちに「理想の最期」を思い描こう

こうした自宅での看取りは、現在、厚生労働省も推進しており、在宅患者を看取った場合、診療報酬が加算されるように改訂され、医療関係者でも取り組むところが増えてきたという。
「自宅での看取りで、ハードルとなっているのは、“今は病院で死ぬもの”という考え方です。確かに病院にいれば、点滴や胃ろう、人工呼吸器などの必要な医療機器をつけて、延命はできるでしょう。ただし、それは患者さんが納得できる生き方かといえば別の話です」(野口医師)

健康なうちに思い描く「自宅での自然な最期」というのは理想であって、現実はそう簡単なものではないのだろう。もちろん、自宅で看取られるのが理想という人もいれば、医療機関のほうが安心、介護施設でゆったりと過ごしたいという人もいるはず。人生の最期を過ごしたい場所について、できるだけ健康なうちに、しっかりと親子や夫婦、兄弟で話し合っておくのも悪くはないだろう。

前の記事 真夏の夜は星空を見上げよう。宇宙を身近に感じるアイテム
次の記事 土用の丑の日に鰻を食べたのは江戸時代から。江戸前といえば鰻だった
SUUMOで住まいを探してみよう