Surface RTレビュー:この大いなる落胆

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  • author 福田ミホ
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Surface RTレビュー:この大いなる落胆

ラップトップ代わりになる? と期待してると...がっかりします。

マイクロソフトが自ら作ったSurfaceの発売日が10月26日に迫る中、米Gizmodoのサムは先行してSurfaceを入手し、実際しばらく使うことができました。彼はSurfaceのデザインチーム直々のプレゼンを受けていたこともあり、Surfaceって仕事にもバリバリ使えるのかも? と期待して使い始めました。

が、その結果は...。以下、サムのレビューでご覧ください。

Surfaceは、テクノロジー界で今年唯一最大のサプライズでした。マイクロソフトは、iPadなんてもう古いと言わんばかりにその新しいタブレットを見せびらかしてきました。その着脱できるキーボード兼カバーは、従来のラップトップも時代遅れに感じさせるものでました。Surface、それはコンピューターの未来を体現するはずでした。

僕らはこれまでにないほど発売を待ち望んできました。でも実際手にして使ってみた今、これほどがっかりしたガジェットは何年ぶりだろうと感じています。Surfaceは良いかもしれませんが、Surface RTが「未来」だとは言えません。少なくとも今は。

Surface RTって?

ラップトップはすでに進化しきっています。MacBook AirUltrabookだって、形態という意味ではもう大きく変化しません。同様にタブレットも、文明を切り開いているとは言えません。ソファに寝そべりながらメールが読めるとか、飛行機で動画が見られるくらいで、本質的にはまだぜいたくなおもちゃです。タブレットが絶対必要な人はいません。でもコンピューターは、誰にだって、森の中で毛皮を売ってるとかじゃない限り、必要です。

Surfaceは、新たなガジェット領域を開拓すると言われてきました。タブレットの気軽さも、パソコンのようなコンテンツ作成も同時に可能にすると言われてきました。入力の便利さ。タイプ、編集、変更。仕事。パワー...。マイクロソフトでは、Surfaceは今ある最善のものを集め、ラップトップとタブレットを巧みに合体させたものだとしています。Surface RTは、メインのコンピューターとしても使えると。

Surfaceをプロトタイプから作り上げた人たちが、マイクロソフト本社でそんな風に僕に語ったんです。以来1週間ほど、僕はSurface RTを使っています。マイクロソフトは、これは歴史的変化だと言っています。たしかにSurfaceのWindows 8バージョンがやってきたら、その中身は高性能ラップトップのようにパワフルでしょうし、パソコンと同じソフトウェアを動かせるはずです。メインコンピューターとして使えることをねらった、マイクロソフト的に最良の製品になることでしょう。でもこのRT版だって、ある程度しっかりしたものであり、デスクに置いて仕事ができるはず、です。

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マイクロソフトがそんな期待に応えてくれるかどうかが、今年のテクノロジーの世界でもっとも重要だと思います。Surfaceは、今後僕らがどんな風にタイプするのか、その青写真になりうるものだからです。

使ってみてどう?

Surfaceは、マイクロソフトがアップル以上にアップル的なことを実現しようとした製品です。すみずみまでこだわってデザインされたことが随所に現れています。ディテールへのこだわりが山ほどあり、たとえばキックスタンドには、それらしいクリック音を出すためにカスタムデザインされたヒンジが付いていたりします。それは小さなことのように聞こえるかもしれませんが、実際手にして、音を聞いてみるとなるほどと感じます。もしそれが表面的なことだとしたら、毎日何度となく触れたり聞いたりするすべてのものが表面的になってしまいます。考え抜かれていると言っていいんじゃないでしょうか。

そして多くの場合、Surfaceは考え抜かれたコンピューターと言えます。それは美しく、手に持ってもテーブルにおいても、クリーンでしっかりして、デンマークの牢獄みたいです。iPad 3より重量はあって若干重さは感じますが、持ちやすいし、面取りされたベゼルは手に馴染みます。USBポートがありますが、他のタブレットみたいにぽっかり空いた穴的なデザインではありません。スクリーンはiPadのRetinaほど高解像度ではありませんが、カラフルでポップなWindows 8にマッチした美しさを維持しています。Surface全体にちりばめられたディテールが、作り手の優秀さを示すかのようです。

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でももっと大事なのは、Surfaceはハンサムだってことです。何とも言えない驚きがあり、高品質が全体に塗り付けられているかのようです。手にして電源を入れるだけでも、シンプルながら楽しい体験です。Touch Coverを開いてキックスタンドを立て、ラップトップのように机に置く。ちょっとした文章を書く。カバーをひっくり返してキーボードを隠し、タブレットのように手に持つ。Webをスワイプして見る。キックスタンドを折り返したカバーに立てて、Netflixで動画を見るときのスタンドにする。そんな風に形を切り替えるのはごく簡単だし、直感的です。Touch CoverはSurfaceという本の表紙のように一体感があります。おそらく今後多くのコンピューターのルック&フィールがこんなふうになると思えるものがあります。

良いところ

Surfaceは、見た瞬間から従来のWindowsデバイスよりチャーミングです。サイズはもうパーフェクトだし、形状も非の打ちどころがありません。タブレットとしても、ラップトップとしても使えます。どちらのモードで使っても違和感はありません。「次世代コンピューター」とは、バッグにするりと入り、明るいディスプレイをほぼ即座に開けて、タッチで使えるOSを動かし、仕事で使えるキーボードが付いているんだ...と思えてきます。

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タブレットは仕事向きじゃない、とは言い尽くされたことです。そんな見方を超えるには、タブレットでもデスクトップマシンと同じように長いメールやプレゼン資料や詩を書いたり、編集したりができなくてはいけません。Surface RTはそれが可能だと証明する初めてのデバイスで、これまでのコンピューターとは使い方が変わってきます。脳の中身が書き換わっていくような、うれしい体験です。

キーボードを開き、電源ボタンを押す。スワイプしてアンロック、パスワードをタイプ。スーパーカラフルなタイルが、Twitterやメールやニュース、写真、Facebook IMなどの更新情報を表示します。何かにタッチして次のものにスクロール、もうひとつスワイプしてタイプを始める。僕らがコンピューターを使い始めて以来の一連の動作が、ひとつに統合されています。Surfaceはインターネットをいっぺんに提示してくれるんです。

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Internet Explorerでのブラウジングも、Netflixを見続けるのも、Microsoft Officeで仕事するのも簡単です。すべてがシームレスで自然で、便利の極みです。コンテンツ消費と創造、読むことと書くこと、聴くことと話すことの間を気楽に行ったり来たりできます。これは、ネットブックがそうあるべきだった姿です。小さくてパワフルでフレキシブルでスリムなコンピューターで、さまざまなことが簡単にできるんです。

Windows 8のラディカルさが、これを実現しているひとつの要因です。Windowsでは伝統的にこうした使い方はできなかったし、OS Xでもそう変わりません。でもMetroは次世代コンピューター基盤として非常に優れており、慣れてしまえば多くの人がそのUIを気に入ることでしょう。使えば使うほどパワフルに使うことができます。

好きじゃないところ

ただ、ここで終わりではありません。Surfaceには夢のような期待がかけられ、夢のような可能性を持っています。そんな可能性は注目には値しますが、価格設定に見合うものかどうかは疑問です。Surface RTにはたくさんのものが詰め込まれていて、多くのことはきちんとやっているものの、生煮えであることは否めません。マイクロソフトでは完ぺきなハードウェアと革命的ソフトウェアをうたっていますが、Surface RTにはイラッとする部分やほころびがかなりたくさんありました。

タブレットの進化形を手にした喜びが落ち着くと、不満が出てくるということです。Surfaceはタブレットでもありラップトップでもあるように思えますが、実際は両方の悪いところを受け継いでいます。ラップトップとタブレット両方をSurfaceで代替するのではなく、いろんな妥協が全体に亀裂をもたらしていて、これならラップトップ(またはタブレット)使ったほうがいいなあ...と思ってしまいます。

Surface RTをラップトップとして使おうとすると、Touch Coverにがっかりすることになります。もちろん、Touch Coverを作り出すためにはものすごい労力がつぎ込まれているし、モバイルキーボードとしての本体との一体感は素晴らしいものです。iPadのBluetoothキーボードとは比べものにもなりません。ソフトウェアキーボードではほぼ無理なタッチタイピングだって実際可能です。

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それでも結局、実際のキーボードに[近い」だけなんです。感圧式ボタンは本物のキーには及ぶべくもないし、ミスタイプせざるをえないような配置になっています。そしてTouch Coverには、初めてiPhoneをピンチしたときやE-inkを見たときに感じたような直感的な感じがまったく欠落しています。

Surfaceが次世代コンピューターとなるためには、Touch Coverが直感的で、すぐに使い始められるようなものでなくてはいけません。でも実際はそうでなく、なんだか自分が不器用に感じられて、ゆっくりタイプするようになります。このレビューは最初Surfaceで書こうとしたんですが、〆切より1週間くらい遅くなってしまいそうな感じがしてやめました。おそらく使っているうちに慣れるでしょうが、このTouch Coverが完ぺきなインターフェースとして、ブレークスルーになるはずだったんです。でも実際は、いやいや使いながら慣れていかなきゃいけないとは...。

トラックパッドももっさりして、さらにイマイチです。特にタッチスクリーンがスムースな分だけイライラしてしまうし、キーボードと違って慣れて改善するものでもありません。

またTouch Coverには、ラップトップの頑丈さもありません。Touch Coverはほとんど布みたいに軽くて開閉がスムースなのは良いんですが、薄すぎて固いテーブルや机の上でないと安定しません。ラップトップみたいに、ひざの上でタイプなんてできません。

もっと残念なのは、もともとSurface RTの本体は安くない499ドル(約4万円)なのに、Touch Coverを付けるとプラス100ドル(約8000円)になることです。これではまるで、車のワイパーが別売りになっているようなものです。マイクロソフトでは物理キーボードのType Coverも販売していますが、こっちはさらに高い129ドル(約1万300円)です。

でも一番残念で致命的なのは、Surface RTのOSがWindows RTであって、Windows 8ではないことです。見た目では違いがわかりませんが、使い始めればわかるはずです。Windows RTではすべての立ち上がりや同期がちょっと遅く、パワー不足の感があります。さらにWindows RT専用アプリストアからしかアプリをインストールできないため、機能不足でもあります。

もっといえばビルトインアプリもいまいちで、準備不足感すらあります。iPadにだっていろいろ制限があるじゃないかという意見もあるかと思いますが、iOSデバイスとOS Xデバイスが別物なのは一目瞭然です。Windows RTとWindows 8の違いは、一見わかりません。それに、もしこのSurface RTの残念さが「タブレットなんだからしょうがないじゃん」と片付けられてしまうなら、マイクロソフトはSurface RTに関して良くも悪くもハイプを盛り上げすぎたんです。

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結局、Surface RTはマイクロソフト製タブレットです。バグも多いしときには壊れているし、その「エコシステム」は永久凍土のようにすら感じられます。TwitterやFacebookの公式アプリもなく、ポピュラーなサードパーティアプリがあってもバグだらけのことがよくあります。Kindleアプリは全然使えないし、画像編集ソフトもありません。Surfaceのソーシャルハブ・Peopleアプリでは全ソーシャルメディアにアクセスできるはずなんですが、そこから誰かのFacebookのウォールに書き込むこともできません。唯一の代替手段はInternet Explorerを使うことです。ただ動画をインポートして見るだけでも、USBでインポートして、デスクトップモードに切り替えてまた戻して、ビデオアプリを開いて、インポートして、ビデオアプリに戻って、再生という、シンプルなタスクに見合わない煩雑な手順が必要です...。

アプリの品揃えはWindows Phoneアプリ以上に悲惨で、旧ソ連の商店を見るかのようです。ただWindows Phoneのほうは直感的に早く使えるのに対し、現状ではSurface RTでできることがあまりありません。Surface RTがイマイチなのは、Windows RTのイマイチさに由来しています。

仕事は、まあできます。でも生産性はMicrosoft Officeの「プレビュー」(β)版に制限されます。また、OfficeはWindows RTのデスクトップモードで使うのですが、Windows 8であればこのモードで古いソフトウェアをインストールできて、そこがポイントなのに、Windows RTではそれができません。デスクトップモードは、Windows RTではほぼ役に立たないのにそこにあって、むしろRTの限界を意識させることになっています。これから数ヵ月後にSurface Pro、つまりx86アーキテクチャ上に作られ、レガシーソフトウェアとの互換性も保ったバージョンが世に出れば、なおさらその思いは強くなることでしょう。

マイクロソフトの販売員がかわいそうです。

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買うべき?

Surface RTは、買わない方がいいです。SurfaceはTouch Cover付きだと599ドル(約4万8000円)もします。ラップトップの代替にならないことを考えれば、なおさら買わない方がいいです。それはタブレットプラスαであり、iPadを意識した価格になってはいますが、いろいろな意味でiPadには及んでいません。

もちろん、そんな状況が変わる可能性はあります。新しいTouch Coverができて、作りはそのままでもっとタイプしやすくなるかもしれないし、Surface Proではパソコン用ソフトウェアも使えて、もっとオープンになるようになるかもしれません(価格は数百ドル高くても)。アプリストアが1ヵ月後とか1年後には見違えるようになるかもしれません。でも、2年前に数百しかなかったWindows Phoneアプリが数万になり、10万を超えたといっても、iOSやAndroidに比べると枯れています。Windows RTでは、そうはならないかもしれませんが...。

いずれにしても、可能性に対してお金を払うことはありません。一瞬、未来がやってきたように感じられたんですが、実際はまだまだだったようです。

レビュー対象:Microsoft Surface RT(32GBモデル)価格:499ドル(約4万円)、Touch Cover付きは599ドル(約4万8000円)スクリーン:10.6インチ、1366x768ピクセル(16:9)プロセッサ:1.3GHzクアッドコア Tegra 3ストレージ:32GB、microSDXCWi-Fi:802.11b/g/nRAM:2GBポート:USB 2.0ポートひとつ、HDビデオ出力重量:676グラムサイズ:10.81 x 6.77 x 0.37インチ(27.5cm x 17.2cm x 0.9cm)バッテリー:読書時は8時間、動画閲覧時は7.5時間(広告による)ギズランク:2.5

Sam Biddle(原文/miho)