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インタビュー

米津玄師 『diorama』

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2012年の金字塔となるロックアルバムの誕生だ。
恐るべき才能を誇る21歳のシンガー・ソングライター米津玄師は、混沌とする音楽シーンの光明となるだろう。
全クリエイティヴを独りで手がけた究極の音楽クリエイターによる、奥深き内面世界をジオラマのように俯瞰できる
傑作アルバム『diorama』に注目をしたい。

「手放さなければ、手に入れることができないモノってあると思うんですよ」

 米津玄師は、世の中との唯一の接点として10代の頃から動画共有サイトに作品を発表し続けていた。
投稿作品は総再生回数が2,000万を超え、100万再生楽曲を6作品も生み出した実績を持っている。そんな人気ネットクリエイターである彼が、初の全国流通アルバム作品で選んだのは全曲新曲で、本名を名乗り、自らヴォーカルを担当するロックアルバムだった。



「VOCALOIDで成功した人って、みんな思うことだと思うんですけど
<初音ミクを隠れ蓑にしたくない>って気持ちがあるんですよ。
初音ミクは見てくれも可愛いし、ポップアイコンとして一流だし、何も意見しないじゃないですか?
そういうのってすごい楽なんです。でも裸の王様かもしれないって不安から抜け出したかったんです」



とはいえ、VOCALOIDプロデューサー名義である<ハチ>としてアルバムをリリースしたら
数万枚のセールスは確約されてはず、なのにである。



「なんだろ。手放さなければ、手に入れることができないモノってあると思うんですよ。有名な言葉に<死守せよ、だが軽やかに手放せ>というのがあるんです。どこか新しい場所に行くには、今いる場所からいなくならなきゃ
いけないんです。だから、過去にすがってしょうもないモノを作るのであれば、さらけ出したほうがいいんじゃないかなと思って。そんなことから、いまの時代における薄い人間関係のつながり。つながっているのか、つながっていないか微妙すぎて分からないみたいな。そんな出来事を物語にしてみたくなったんです」



ネットクリエーターは、動画共有サイトをコミュニティとして、無料で音楽を発表する<場>として活用し、プロもアマも関係
なく、同じ条件のもとランキング至上主義という数値的裏付けとともにユーザーに評価されていく。芸能的なパワーゲームが通用しづらい、裏表の無い厳しい世界で鍛えられた彼の言葉には説得力がある。そこに、今や体制に骨抜きにされ、
忘れられつつあるロックの本質を感じたのだ。そして、生み出された米津名義の作品であるニューウェーブ・チューン
“ゴーゴー幽霊船”はすでに60万再生を突破している。



「この曲は、タイトルのゴーゴーという響きから入ったんです。UKっぽさと歌のハマりかたを重視しました。
え、「サマソニ」とかフェスが好きそう? 「フジロック」には去年行きましたよ」




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全曲作詞、作曲、アレンジ、ヴォーカル、アートワーク、動画までを手がける米津玄師ならではの創作活動、
倫理観を押しやった不条理を感じさせる優れたアート世界はどのように生まれるのだろうか。


「創作活動……あまり、生活と明確に分けてはいなくて、本当にそれ以外することない生活なんです。
作らないときは、本を読んで、YouTubeを見て終わりなので。生活≒創作みたいな感じなんです。
コミュニケーション渇望というのはあるかもしれません。音楽以外で手段がないんですよ」



 現在21歳である彼のルーツはBUMP OF CHICKENだという。お伽噺的な世界観、執拗に描かれた
モノクロームの質感によるイラストからも連想できるアーティストだ。



「バンプ好きですね。小学校5年生の時にウチにパソコンが来て、インターネットにつながったんですけど、
その頃、バンプの曲にフラッシュアニメを付けるのが流行ってたんですよ。
今ニコニコ動画でやっているようなことの先駆けだったのかもしれませんね」



 構想から3年、ようやく完成した1stアルバム『diorama』。まさに箱庭感というか、自分の内面世界で自由に、
無邪気に遊んでいるイメージを感じる作品だ。しかし、決してマニアックではなく、キャッチーな快楽ポイントが
織りまぜられテクニカル且つダンサブルなアーティストの影響が垣間見える魅力的なロックアルバムに仕上がっている。
そして、アートワークで印象的なのが、ナマズの上に<街>が存在していることだろう。 



「去年の3月に地震があったじゃないですか? それが、色濃く出てますよね。最初は震災を意識して作ってなかったんですよ。普通の街を作ろうと思ってました。でも、去年街が壊れていく映像を目の当たりにして、もうそれ以前には戻れないなと思いました。ナマズは、江戸時代のナマズ絵を踏襲してます。江戸時代にもすごい地震があったみたいなんですよ。でも、メッセージ性とか特に考えてはいないです。それこそ、子供の頃に絵を書いてたり、ゲームをやっていた延長線上にいまの自分があると思っています」



 

■New Album……『diorama』 5/16 on sale!

■SONG LIST……

01.街

02.ゴーゴー幽霊船

03.駄菓子屋商売

04.caribou

05.あめふり婦人

06.ディスコバルーン

07.vivi

08.トイパトリオット

09.恋と病熱

10.Black Sheep

11.乾涸びたバスひとつ

12.首なし閑古鳥

13.心像放映

14.抄本

■ PROFILE…米津玄師 (ヨネヅ ケンシ)

ネットクリエイターの中でも際立った独特の世界観を武器に作詞、作曲、編曲まで行うマルチアーティスト。
楽曲のみならず自身で手掛けるイラスト、動画にも定評が有り、短編アニメとしても遜色のない動画と共に
公開した楽曲はニコニコ動画上においてトップクラスの再生数と影響力を誇っている。

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記事内容:TOWER 2012/5/5号より掲載

カテゴリ : COVER ARTIST

掲載: 2012年05月05日 12:00

ソース: 2012/5/5

TEXT:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)