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青春の輝きを永遠のものにしたクリストファー・オーウェンス

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2013/01/16   17:58
更新
2013/01/16   17:58
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ガールズを脱退後、ソロとして活動を開始したクリストファー・オーウェンスの初作『Lysandre』について。牧歌的なサウンドが聴こえてくる本作は、まるで青春の輝きを永遠に収めたフォト・アルバムのようで——。



クリストファー・オーウェンスとは、なんだかいつも気が合う気がする。ロック・オペラのようなコンセプト・アルバムを誰か作らないかな、と思っていたら、ガールズを辞めてから1枚目となる今作『Lysandre』がそれだった。あるメロディーが別の曲でもまた戻ってきたりするのが、オペラのようで盛り上がる。

フレーミング・リップスの『Yoshimi Battles The Pink Robots』や『At War With The Mystics』のような壮大なコンセプトがあるわけじゃないです。どちらかというとキンクスの『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』のような、牧歌的な感じ。ガールズの『Father, Son, Holy Ghost』も牧歌的と言えば牧歌的だった。ガールズというユニットは、MGMTみたいなエレクトリック処理した作品を出していくんだろうなと思っていたら、ギター主体の〈素の音〉になっていてびっくりした。

以前、クリストファー・オーウェンスにインタヴューした時に〈フェルトが大好き、ローレンスは天才〉と言っていたから、僕は『Father, Son, Holy Ghost』での変化はそれほど衝撃ではなかったが、この変化がガールズの相方・チェット“JR”ホワイトとの訣別をもたらしたんだと思う。

『Father, Son, Holy Ghost』を出した2011年はエレクトリックな音の人気も高かったし、この変化はどうなんだろうと思っていたんだけど、いま考えると正解ですよね。そこからいまは、ギターで自分の心情を表現するような、シンガー・ソングライター然とした音楽のほうに流れてきている感じがします。

『Lysandre』はまさにそういうアルバムですよね。2008年にフランスのフェスで会ったリサンドレという女性との出会いを描いたコンセプト・アルバム——というか、この作品のジャケットを撮っているライアン・マッギンレーの写真集のようなアルバムですよね。本当に好きです。

クリストファーが、リサンドレとつき合っていないというのもいいじゃないですか。歌われていることは、人と人の出会いの不思議みたいな感じですかね。それって、ライアン・マッギンレーなど新進の写真家のテーマですよね。青春の始まりと終わりを収めたナン・ゴールディンやラリー・クラークあたりの写真から、青春の輝きだけを永遠に写し取ろうとするスタイル。それをクリストファー・オーウェンスは今作でやっているのじゃないでしょうか?

まるでフォト・アルバムのように、いつ聴き直しても、あの輝きが甦るような一枚。『Lysandre』は、牧歌的な作風ですごく冒険をした作品だと思います。