差別はネットの娯楽なのか(10)―不逞鮮人追放!韓流撲滅 デモ in 新大久保「良い韓国人も 悪い韓国人も どちらも殺せ」

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「良い韓国人も 悪い韓国人も どちらも殺せ」

旧正月を控え、3連休の初日である2月9日に、またしても新大久保で新社会運動主催、在特会協賛での反韓デモが行われると聞いた。前回、1月12日に行われたデモについて記事にしたこともあって、このことがとても気になっていた。

しかし、前回の記事について桜井誠会長が激怒しているらしく、現地に行くことは混乱を起こすことにもなりかねない、かえって地域に迷惑をかけるのではないかとして、知人たちからは上京をやんわりと止められていた。

そんなある日、ツイッター上で「レイシストしばき隊 隊員募集」といったつぶやきを見た。これは、「金曜官邸前抗議」のスタッフの一人であり、同名の本の著者である野間易通さんが結成し、呼びかけたものだった。

在特会などのレイシストは、新大久保での反韓デモ後、「お散歩」という形を取りながらデモの許可を得ていない商店街などに侵入し、暴言を吐いたり店舗や韓流ファンの日本人に嫌がらせをしたりすることがある。

「レイシストしばき隊」は一見物騒な名称とは裏腹に、反韓デモ自体は放置し、非暴力だという。その目的は、レイシストがデモ終了後にそうした行動に出た場合にいちはやく止めに入り、地域の安全を守るというものだった。

名称を巡っての誤解もあり、しばらくの間は賛否両論が飛び交った。在日コリアンからも否定的な意見が相次いだ。でも、私はこのつぶやきを見て面白いと思い、野間さん自身から直接話を聞いてみたかった。

私が野間さんを初めて見かけたのが、3年前の2月26日に代々木公園で行われた朝鮮学校無償化除外を反対するデモの時だった。なので、因縁のようなものを勝手に感じていたことも背景にある。

そして、取材させてほしいと申し込んだ。しかし、残念ながら返事はNOだった。できるだけ活動の内容については、秘密にしたいとのことだった。その代り、当日に時間を取ってもらえることにはなった。

だが、当日は野間さんにほぼ時間がなく、会話はほんのあいさつ程度に終わった。私が取材前までにつかんだ「レイシストしばき隊」の情報は、野間さんがツイッターでつぶやいた

「警視庁からしばき隊への問い合わせがあったので、総人員500名、ロケットランチャー5台、AK-47が30丁、MP5が50丁、青龍刀部隊20名超と答えておきました」
「警視庁警備課『どこに集合すんの?』しばき隊『規定時刻に300名が落下傘で降下する』」

といったものだけだった。

そして、直前に合流したジャーナリストの安田浩一さんとともに、デモ隊の集合場所である大久保公園に向かった。大久保公園を出発した在特会は、職安通りへ向かった。その間、私は南北に走るイケメン通りを通り抜けた。「レイシストしばき隊」は、この通りに在特会らを入らせないようにするらしい、というのは途中で耳にした。

そして、大久保通りでデモ隊が来るのを待った。大久保交番の前で、カメラを構えようとすると白いダウンベストを着て自転車に乗った年配の男性と目が合った。男性は突然、「朝鮮人は出て行ったらいい、ゴキブリだ」と大声で云いながら通り過ぎた。

その直後、デモ隊がやってきた。その中でコールしていた男性が「自分は大阪から来たが、大阪の鶴橋にもコリアタウンがある。夜になったらレイプが多発する」と叫んでいた。私は小さいころからずっとその街を知っているが、そんな話は初耳だ。そういうデマを振りまくために大阪から来たのか、それとも恥を重ねに来たのだろうか。

ツイッターでその後、話題になっていたプラカードや横断幕の「良い韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「害虫駆除」などは、撮影した写真にはっきりと写っている。私はデモ隊と反対側にいたにもかかわらず、だ。それを持った人々はカメラを持つ私に向かってそれを掲げた。マスクの人はさておき、多くの人はカメラに笑顔を向け得意そうに笑った。その笑顔を見て、背筋が凍るような気持ちになった。

目の前にいた中年の女性たちは、ヘイトスピーチを繰り広げるデモ隊の男性について、「いくら正しいことを云っても、あの巻き舌じゃあかえって。ね?」と話していた。「発言の内容は問題にしないの?」と、問いかけたい気持ちを、ぐっとこらえた。絶望はどこにでも転がっている。

最初はツイッターで実況でもしようかと思っていたが、いざデモを見たら動画の何万倍も酷すぎて何も出来なかった。呆然としていたら、直前に知り合った韓国料理店のオーナーに「大丈夫か?」と声を掛けられた。その途端、道端で号泣してしまった。一人ぼっちで取り残されたような気分にもなったし、人間はどこまでも残酷になれるという、それが本当に怖かった。

しばらくして落ち着いた後、気を取り直してデモを最後まで追いかけた。

在特会の関係者とみられる人物が、ずっと私を映していたので、私も映し返してみた。

当然、私はその人を映した動画や写真を公開するつもりはない。ブレノこと松本修一は、自身ら在特会の活動を撮影した動画をネット上にたびたび公開していた。それは一種の暴力であり、差別に加担する行為として京都朝鮮学校の裁判でも追及された。そのことについて、何一つ学ばない人たちが目の前にいた。

この日、在特会のデモを見て、怒り、悲しむ日本人に何人も出会った。「レイシストしばき隊」に参加していた数人とも、途中で話すことができた。皆、デモを目前にして怒りを隠しきれない様子だった。それが嬉しいと思う反面、怒ることより恐怖が先に来た自分だけが、どこか取り残されているような気分にもなった。

安田さんには、デモが終了後「名指しされなかった?大丈夫?」と声を掛けられた。心配していただいたにもかかわらず、「名指しされなくても、すべて自分のことに聞こえた。そうでしょ?」と云ってしまった。まるで八つ当たりみたいだった。今考えると、とても申し訳なかったと思う。

そして、「レイシストしばき隊」の活動はここからが本番になるのだが、女性の参加は禁止(在特会関係者は弱い立場の者を狙うのが得意)ということや、外国籍であるのが自分ひとりだけであり、万が一トラブルが発生した時に逮捕という不安があったのでその場を離れることにした。

帰り道の新宿の交差点で、和服でデモに参加していた人が別の参加者と談笑しながら目の前を通り過ぎた。「朝鮮人を殺せ」と叫ぶデモにわざわざ和服で参加した彼にとって、いったいこのデモはなんだったのか。「殺したい朝鮮人は目の前ですよ」と声を掛けたかった。

私は在特会と差別に関して、やっぱり冷静に語れない。感情的になるし、また冷静に語ろうとする人に対しても、憤りのような憎しみに似たものを感じる。語る前に、一度ちゃんと傷ついて、黙って一緒に泣いて欲しいと思うのだ。そのために記事を書いているのかもしれない。

大阪の自宅に戻った瞬間、京都の裁判などにもかかわる東京の知人から電話があり、新大久保に行ったことについて怒られると思ったが「お帰り、御苦労さん」と云われて、安心してまた泣いた。

「レイシストしばき隊」は、9日は無事にレイシストたちの「お散歩」を阻止した。そして10日には前日の効果もあって「お散歩」自体が行われなかったという。

私は9日から10日に日付が変わる時、「それにしても、新大久保の上空からレイシストしばき隊の落下傘部隊が次々と地上に降り立った時は、本当に圧巻だった」とつぶやいた。これはもちろん冗談だが、2日間にわたって新大久保の街には、「レイシストしばき隊」をはじめ、安田さん、新大久保に関わる人々、多くの人々の善意が降り注いだと思っている。

 

次回の出動は、17日。

 
(李信恵)

画像: 不逞鮮人追放!韓流撲滅 デモ in 新大久保 デモ隊より

 

レイシストをしばき隊 隊員募集 – Forces of Oppression
http://kdxn.tumblr.com/post/41861067184

※この記事はガジェ通ウェブライターの「rinda」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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