「自分のお笑いの向いてなさに嫌になる日々からやっと解放されます。嬉しいなぁ」

お笑いコンビ「背中バキボキズ」のパソ・コン太郎さん(30)が2013年3月1日、ブログで芸能界引退を表明した。

時折テレビに出ることもあったが、ギャラは過去3年間でたった36万円。経済的に行き詰まり、お笑いの世界に遂に見切りをつけることになった。羽振りのいい吉本タレントが目立つ一方で、「売れない芸人生活」を控えめに語る悲痛な声に静かな波紋が広がっている。

ギャラの総額が養成所の学費にも届かない

「背中バキボキズ」はよしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のパソ・コン太郎さんと茂木哲平さん(27)の2人組。養成所「東京NSC」の第15期生として卒業し、2010年から活動を始めた。

背中バキボキズはパソ・コン太郎さんがパソコンのディスプレーの被り物をして、腕にキーボードをはめたパソコンと人間のハーフという設定で漫才をしていた。インパクトのある見た目からゴールデン番組にも何度か出演したものの、売れっ子芸人とは縁遠い生活だった。

芸人を辞めると決めたのは半年ほど前だ。

「僕が作るものはスベるか、よくて苦笑い。だからボツになるか、原型をとどめないほど作りかえられるか。そして作ってもらったものの方がウケるんですよね」

とネタ作りの辛さをこぼす。

また、「面白い事できないのも辛いけど、それ以上に、この世界では人付き合いが一番大切なので、人付き合い苦手な僕はかなり無理して辛かったです」とパソコン関連で先輩から頼まれごとを受けるのも負担になっていたという。「それでしょっちゅう怒られて、そのたびに自己嫌悪に陥って、すっかり人付き合い恐怖症になっちゃいました」。

ネタ作りと人付き合いに行き詰まる一方で、子どもが生まれたため、子育てをする妻に代わってバイトで生活費を工面せねばならず、お笑いに集中できなかったと振り返っている。

ブログの最後には「芸人パソ・コン太郎の通算成績(10年4月〜13年3月)」として、これまでに出演したテレビ番組や舞台の本数を列挙。3年間のギャラ総額は36万7361円(1本当たり平均1945円)と打ち明けた。

ツイッターで芸人仲間から養成所の費用40万円を稼ぐまで続けて欲しかったと言われたが、「あと3万3千円かー。ライブなら50本くらい出ないとかー」と力なく返答した。

「やれることが幸せなのか、やめられることが幸せなのか」

このブログを見たファンからは引退を残念がる声が寄せられ、芸人仲間からも「いつでも戻ってこいよ」と言われている。

しかし一方で、漫画「ドラゴンボール」のベジータのモノマネでおなじみの若手芸人R藤本さん(31)は「こういう世界なんです」とパソ・コン太郎さんの決断にブログで理解を示した。

藤本さんは、

「辞めることは前から聞いていたし、止めようとも思わなかった。そもそも売れてない先輩から止められたところで何の説得力もないですしね。芸人が自主的に解散、辞めることに関して、残念だと思ったことは一度もないです。本当、稼げないですから」

と淡々としている。

パソコン太郎さんと藤本さんがともにサラリーマンを経験していることについて、「社会人を経験した芸人の多くは、よく言えば冷静、悪く言えば冷めている。売れてない若手によくある青春ノリがない」という。そのため「仕事として向いているかどうか」という問題に向き合ってしまう。仕事や何かを捨ててきた芸人を目指した人間にとって、「そこでさらに芸人を辞める、という行為は、一度捨てた自分をさらに否定して、また元に戻らなくてはいけないのです。残酷ですよね」と語る。

自らをテレビに向いていないという藤本さんも「面白いライブに出会えてなかったら、とっくに芸人やめていたと思います」と白状した。

「やれることが幸せなのか、やめられることが幸せなのか。5年後のR藤本VS旧パソ・コン太郎が、この問題に1つの答えを出してくれるでしょう。どちらも幸せだったらいいんですけどねー」と締めくくっている。

なお相方の茂木哲平さんは「パソ・コン太郎最後の仕事をしかと見届けました。今までありがとうございました」とツイッターで触れている。