ワンセグ対応の携帯端末やチューナーを内蔵したパソコンも「受信設備」であり、NHKを見ようが見まいが所有しているだけで受信契約の対象になるという。納得できる?

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10月1日から、月額最大120円の受信料値下げに踏み切ったNHK。その一方で、ビジネスホテルチェーン大手の東横インには、受信料の未払いをめぐり約5億5000万円の賠償を求める訴訟を起こしている。

NHKが巨額の支払いを請求する根拠となっているのが「放送法」。同法によれば、受信料はテレビなどの受信設備を有する者に課せられた義務であり、番組を視聴する、しないに関わらず支払うべきもの。ただ、「受信設備を設置した段階で受信契約が成立する」という原理原則は、現在の状況に恐ろしいほどマッチしていない。

とにかく「受信設備」の定義が広すぎるため、現状では仮にテレビは所有していなくても、ワンセグ機能が搭載されている携帯電話やカーナビ、ニンテンドーDSなど、テレビを視聴可能な受信機を所有しているだけで受信契約を結ばなければならないのだ。

こんな時代にそぐわない「放送法」にのっとって受信料を支払えと言われても、素直に同意できないのが普通の感覚ではないだろうか。

NHKの現在の契約率は約79%。イギリスの公共放送機関であるBBCの契約率98%と比べると、明らかに低い数値にとどまっている。イギリスの場合、受信許可料(受信料)の支払いを拒否した場合は罰則規定が設けられているなど“強制力”に違いはあるが、両者の差はそのせいだけではないだろう。

「そもそもNHKの本来の使命は公共的な空間を国民に与えること。少数派にも意見の場を提供し、国からの情報公開を徹底したり……。一方、国民にはそういった公共空間を支えるため受信料支払いの義務が課せられている。NHKにおいて放送の公共性が保たれている限りは契約強制の理屈も成り立つと思いますが、現在、NHKはそれを担保できているでしょうか? はなはだ疑問に感じています」(受信料問題に詳しい弁護士の梓澤和幸氏)

規模が大きくなりすぎたなどの批判はあるものの、イギリスでBBCは多くの国民から公共放送として認められている。果たして、NHKはどうだろうか。

「受信料を支払わない人には一部の情報のみ提供し、支払った人だけにすべての放送が見えるようにする『スクランブル化』も、選択肢のひとつとして考えるべきときにきています。ただ、仮に今すぐ実行したら、NHKの経営は立ち行かなくなるでしょう。だったら見ないよ、という人が多いはずですから……。もちろん、それで淘汰されるような公共放送など存在意義がないともいえますが、ただ現時点でわれわれが公共放送を失うと、本当に損をするのは誰なのかも考えるべきだとは思います」(上智大学新聞学科・碓井広義教授)

公共放送とは何か。公共放送は必要なのか、そうではないのか。そろそろこの問題について、国民的議論が必要なのかもしれない。

(取材・文/コバタカヒト)